突然の単語に、危うく皿を落としそうになる。
っぶねー……
そーっと視線を琴音の方に向けると。
「……ってわけで、最近は付き合いが悪くて」
友達との話に夢中だった。
僕に気づいたわけじゃなかったのか。
「へぇ~、そうなんだ。残念だったわね、琴音」
「うん。あーあ、なかなか上手くいかないなぁ」
「恋ってそーいうもんよ、ファイト!」
恋の相談か。
春樹って聞こえた気がしたけど、多分、別の単語だったんだろうな。
……自分の話題だと誤認していた僕自身が、恥ずかしい。
つーか、あの彼氏!
琴音のこと、普段はほったらかしかよ!
めっちゃ文句いってんじゃん、なにしてんだよー……
「(っとと、平常心で)スフレパンケーキをお持ちいたしました」
丁寧に、コトン、コトンと皿を配ってゆく。
本当は、ちょっと……ちょーっと聞き耳を立てて話を聞きたいけど……
「ごゆっくりお過ごしください」
バレる可能性もあるしと、足早に撤退する。
小走りで戻ると、なぜかセバスチャンさんたちがニヤニヤとしていた。
「……なんですか」
「いやなにも。部活が終わったら、な」
なんだよ、もう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「あなた様のお帰りを、我ら執事一同、心待ちにしておりますね」
「早く帰ってきてね! ボクが、寂しくなっちゃうからさ」
「夜道には、十分に気を……お気を付けてください」
最後のお嬢様を見送り、執事喫茶部の営業は終了。
入口のドアを閉め、鍵をかけたところで、室内の雰囲気がやわらぐ。
……ふぅ、バレずに初日を終えることができてよかった。
「おっつかれ~い! あー、肩がこったよー」
「小学生なのに一番おっさんみたいな言葉だな、アル」
「気を張ってるって言ってくださーい、セバスチャン先輩」
みんなも素の感じに戻って、軽口を叩きあう。
僕も執事服のネクタイを緩めようとすると……
「ところで、ベディヴィエール」
「ひぃ!? は、はい、どこが悪かったでしょうか、スミスさん!」
目を細めて近づいてくる彼、じゃない、彼女に恐怖しかない。
思わず背筋が伸びた。
お、怒られる……ッ
「写真では知っていましたが、Dテーブルにいた子が、キミの想い人ですね」
「は、はい、そう、です。えっと、扉側の方にいた」
「そう」
がしっ、と両手が僕の肩に強く置かれる。
ああああああ、ごめんなさい、ちゃんと仕事していな……
「ぜひとも、出会いから惚れる経緯を話せ。赤裸々に。今すぐに」
「……え」
「初々しい恋愛模様は、タカラジェンヌを目指す上で最高の素材だ」
そっち――――――ッ!?
「スミスさー……もっと女らしく、恋バナしたい~! で、良くね?」
「黙れセバスチャン。そもそも、あたしは男役のトップを目指し、至る存在」
スミスさんは、右手で髪の毛をかきあげ
「身も心も『男』であるぐらいが丁度いい。すべては目的のためさ」
と、断言した。
正直な話、下手な男よりも、よっぽど『男』ですよ。
僕も、ここまで言い切ってしまえるようになりたい。
「というわけで、語ってもらいましょうか? ベディヴィエール」
「え? はっ、いつ間にか椅子に座らされて、紅茶セットが目の前に!?」
一瞬の出来事で、びびるんですけど。
セバスチャンさんたちに視線を向けるも、彼らの目はスミスさんへ。
……早業が過ぎる。
「いや、その、いくらなんでも、ちょっと恥ずかしいといいますか」
「彼女の一番星を目指すなら、初心を忘れるべからず。違います?」
「うっ……それは、そう、ですけど」
そこを突かれると、反論できなくなるんですけどー!
スミスさんにどう返答すべきか、必死に考えあぐねてしまう。
「告白、するんでしょ?」
「……はい」
「例え、略奪の形でも。ほぼ99%振り向いて貰えなくても」
「そうです……ッ!」
スミスさんの言葉に、僕は頷く。
「琴音に受け入れられなくても……守りたいし、助けたい、です」
「よろしい! 目の前にいるのは同性と思え、女と思うな」
「……というか、ここにいる誰よりも男前ですよ、スミスさんは」
「ははっ、聞いたかセバスチャン。あたしが一番美丈夫だってさ」
「そこまで褒めてねぇだろ。美男子……いや、女子……いでっ!」
「男役を極める以上、女と扱うなと何度も言った。お前の耳は飾りか」
今、何が起きたんだろう。
急にセバスチャンさんが額を両手で抑えたというか……
あ、アレか。小さな石? 机の上に飾ってあった備品か。
「さぁ話せ、ベディヴィエール。心からの言葉は、お前を後押しするはずだ」
確信を持った目と言葉。
スミスさんの語るそれは、絶対的な自信の表れで。
「惚れた女を口説くなら、態度を、気持ちを示せ。執事の特訓ように」
「……ッ、わかりました!」
っぶねー……
そーっと視線を琴音の方に向けると。
「……ってわけで、最近は付き合いが悪くて」
友達との話に夢中だった。
僕に気づいたわけじゃなかったのか。
「へぇ~、そうなんだ。残念だったわね、琴音」
「うん。あーあ、なかなか上手くいかないなぁ」
「恋ってそーいうもんよ、ファイト!」
恋の相談か。
春樹って聞こえた気がしたけど、多分、別の単語だったんだろうな。
……自分の話題だと誤認していた僕自身が、恥ずかしい。
つーか、あの彼氏!
琴音のこと、普段はほったらかしかよ!
めっちゃ文句いってんじゃん、なにしてんだよー……
「(っとと、平常心で)スフレパンケーキをお持ちいたしました」
丁寧に、コトン、コトンと皿を配ってゆく。
本当は、ちょっと……ちょーっと聞き耳を立てて話を聞きたいけど……
「ごゆっくりお過ごしください」
バレる可能性もあるしと、足早に撤退する。
小走りで戻ると、なぜかセバスチャンさんたちがニヤニヤとしていた。
「……なんですか」
「いやなにも。部活が終わったら、な」
なんだよ、もう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「あなた様のお帰りを、我ら執事一同、心待ちにしておりますね」
「早く帰ってきてね! ボクが、寂しくなっちゃうからさ」
「夜道には、十分に気を……お気を付けてください」
最後のお嬢様を見送り、執事喫茶部の営業は終了。
入口のドアを閉め、鍵をかけたところで、室内の雰囲気がやわらぐ。
……ふぅ、バレずに初日を終えることができてよかった。
「おっつかれ~い! あー、肩がこったよー」
「小学生なのに一番おっさんみたいな言葉だな、アル」
「気を張ってるって言ってくださーい、セバスチャン先輩」
みんなも素の感じに戻って、軽口を叩きあう。
僕も執事服のネクタイを緩めようとすると……
「ところで、ベディヴィエール」
「ひぃ!? は、はい、どこが悪かったでしょうか、スミスさん!」
目を細めて近づいてくる彼、じゃない、彼女に恐怖しかない。
思わず背筋が伸びた。
お、怒られる……ッ
「写真では知っていましたが、Dテーブルにいた子が、キミの想い人ですね」
「は、はい、そう、です。えっと、扉側の方にいた」
「そう」
がしっ、と両手が僕の肩に強く置かれる。
ああああああ、ごめんなさい、ちゃんと仕事していな……
「ぜひとも、出会いから惚れる経緯を話せ。赤裸々に。今すぐに」
「……え」
「初々しい恋愛模様は、タカラジェンヌを目指す上で最高の素材だ」
そっち――――――ッ!?
「スミスさー……もっと女らしく、恋バナしたい~! で、良くね?」
「黙れセバスチャン。そもそも、あたしは男役のトップを目指し、至る存在」
スミスさんは、右手で髪の毛をかきあげ
「身も心も『男』であるぐらいが丁度いい。すべては目的のためさ」
と、断言した。
正直な話、下手な男よりも、よっぽど『男』ですよ。
僕も、ここまで言い切ってしまえるようになりたい。
「というわけで、語ってもらいましょうか? ベディヴィエール」
「え? はっ、いつ間にか椅子に座らされて、紅茶セットが目の前に!?」
一瞬の出来事で、びびるんですけど。
セバスチャンさんたちに視線を向けるも、彼らの目はスミスさんへ。
……早業が過ぎる。
「いや、その、いくらなんでも、ちょっと恥ずかしいといいますか」
「彼女の一番星を目指すなら、初心を忘れるべからず。違います?」
「うっ……それは、そう、ですけど」
そこを突かれると、反論できなくなるんですけどー!
スミスさんにどう返答すべきか、必死に考えあぐねてしまう。
「告白、するんでしょ?」
「……はい」
「例え、略奪の形でも。ほぼ99%振り向いて貰えなくても」
「そうです……ッ!」
スミスさんの言葉に、僕は頷く。
「琴音に受け入れられなくても……守りたいし、助けたい、です」
「よろしい! 目の前にいるのは同性と思え、女と思うな」
「……というか、ここにいる誰よりも男前ですよ、スミスさんは」
「ははっ、聞いたかセバスチャン。あたしが一番美丈夫だってさ」
「そこまで褒めてねぇだろ。美男子……いや、女子……いでっ!」
「男役を極める以上、女と扱うなと何度も言った。お前の耳は飾りか」
今、何が起きたんだろう。
急にセバスチャンさんが額を両手で抑えたというか……
あ、アレか。小さな石? 机の上に飾ってあった備品か。
「さぁ話せ、ベディヴィエール。心からの言葉は、お前を後押しするはずだ」
確信を持った目と言葉。
スミスさんの語るそれは、絶対的な自信の表れで。
「惚れた女を口説くなら、態度を、気持ちを示せ。執事の特訓ように」
「……ッ、わかりました!」

