執事じゃないと言えないコト

「そういえば……ここは執事『喫茶』部だった……」

 何をいまさら? と言われそうだが、待って欲しい。
 僕目線ではこれまで、執事たる彼らが課した課題をこなしていた。
 すなわち、入部テストと、立ち振る舞いである。
 なので、喫茶要素が完全に消失していたので忘れていた、ということ。

「お帰りなさいませ、お嬢様。今日も実に麗しい」
「キャー、セバスチャンも、かっこいいです!」
「お褒めに預かり光栄です。アイスクリームの準備ができておりますが」
「やった! お手製アイス大好きー!」

 普段の傲慢オレ様な部長様はどこへいった。
 と、声を大にして言いたくなる、模範的な執事なセバスチャンさん。

「おやこれは……少しご機嫌斜めなご様子。では、ハーブティーを」
「よく、わかりましたね。じゃあ、スミス様のとっておきのをお願いします」
「かしこまりました。僅かな間、あなた様の傍を離れることをお許しください」
「……え、えぇ。楽しみにしてます、じゃなくて!……ますよ」

 女性という性別を超越した何か。
 下手な男性よりも、よっぽど口説き文句が上手なスミスさん。

「今日も頑張ったね、偉いよお嬢様♪ ボク作のクッキーはお口にあうかな?」
「ありがとう、アルくん! 今日も主人想いのいい子だね~」
「ほんとー!? えっへへ~、褒められちゃった。うれしいな」

 生意気な少年は家出中。
 庇護欲を刺激する弟モードな、アルフレッドさん。

「……プロだ。プロしかいない」

 あと、間違いなく喫茶店だ。
 僕は唖然としつつも、スフレパンケーキを焼き続けている。
 よし、これで今、いらっしゃってる人の分は終了。
 丁寧にお皿にもって、配膳ワゴンに乗せて、出発ー!

「あら、あちらの方は……もしかして新人さんですか、セバスチャン」
「おっと、お目が高いお嬢様だ。みなさま、ご注目頂けますでしょうか!」

 配膳ワゴンを止め、皿を取ろうとした直前、ぐいっ、とひっぱられる。
 あっぶな!?

「セバスチャンさん!? 危うくスフレパンケーキが台無しに……ッ」
「こらこら。態度、口調がアウトだぜ。スミスから減点が飛んでくるぞ」

 おっとと、まずい。
 チラリと視線をスミスさんに向けると……ひえっ、睨んできている、怖い。

「さぁて、ご紹介! 本日より皆様をご奉仕いたします、期待の新人執事……」

 とんっ、と軽く背中を押され、僕はみんなの前に出る。
 あああああ、心の準備が!?

「可愛い系担当、ベディヴィエールとなりますッ!」

 すーはー、落ち着け、大丈夫。
 まずは背筋をしっかり伸ばす。
 表情のこわばりをいったん緩めて、少しだけ口角を上げる。

(まずは態度で。僕はアーサー王の側近、最高の執事!)

 よしっ、と顔を上げた瞬間。

(……なあああああ―――――ッ!?)

 予想外の人物と、目が合ってしまった。
 いやいやいや、なんでここにいるの!?
 彼氏は! 性格が超悪くて正直認めたくない彼氏がいるのに!

(なんでココにいるんだよ、琴音ぇ―――ッ!)

 みると、いつも仲良くしている数名の友達と一緒っぽい。
 いや、止めろよ友達たち。
 彼氏持ちを執事喫茶に誘うな。
 その前に、部活はどうしたんだよ―――!

「ベディくーん?」

 はっ! そうだった、挨拶がまだだった。
 一呼吸おいて、スミスさんによって叩き込まれた動きをする。
 右足を、半歩ほど後ろに。
 指先は軽く閉じ、お腹のあたりへ。

「お初にお目にかかります。僕はベディヴィエール」

 ゆっくりと会釈。角度にして正確に45度。
 その姿勢を保ったまま、2秒きっかり。
 重力に逆らうような重厚な緩やかさで、僕は上体を起こす。
 元の直立不動に戻ったとき、空気の密度がわずかに変わったのを感じる。

「気軽に、ベディ、とお呼びくださいませ」

 そのまま、はにかむように微笑むと……

「か、かわいい……」
「やだ、すっごくアルくんとは別ベクトルで、ヨシヨシしたい」
「むしろ、いじめたい」

 と、わいわいと室内が騒がしくなった。
 あの……聞こえてくる評価の大半が、不本意というか。

「お嬢様がた……できれば、その……カッコイイと、言って欲しいです」
「「「きゃー、やっぱり可愛いー!」」」
「うん、いじめたい」

 逆効果。
 おかしい、僕は心の底からお願いしたのに

「いやぁ、ベディさー、女性のツボを良く分かっているね」
「なんて?」
「おや、まさか無意識ですか。これは末恐ろしい」
「なんて?」
「あっはは。つーわけで、本日より4人態勢だ、よろしくお嬢様たち!」
「だから、なんて?」

 勝手に納得する先輩方。
 それに『はーい!』と笑顔で答えるお嬢様たち。
 僕の意見は―――ッ!?

「ほらほら、細かいことはともかく、配膳よろしく頼むぜ」
「はぁい……」

 くっそー、しゃくぜんとしない。
 僕は配膳ワゴンから、スフレパンケーキの皿を取り、順番に配ってゆく。
 やがて……

(うあぁ……きちゃった……)

 琴音がいるテーブルまで、来てしまった。

(バレないよな。バレる、わけないか)

 見た目はもう別人レベル。
 声だって、他人の空似なんて良くある話だ。
 堂々としろ。
 案外、それでバレやしないんだ、絶対に。

「……、春樹……」
「ッ!?」