執事じゃないと言えないコト

 私立聖鳳学園には、学生寮が1つだけ存在する。
 それが、徒歩1分ほどの位置にあるここ。

「学生寮というよりはシェアハウス、っぽいですよね」

 毎年、誰かしらがこの学生寮に入ってるが、条件不明。
 入試の結果。
 容姿端麗か否か。
 両親の資産によるのでは。
 などなど、さまざまな噂だけが飛び交っている。

(が、今回の状況を考えたら……真の条件は1つだよな)

 執事喫茶部に所属する人、だろうなぁ。

「ここがキミの部屋。着替え終えたらリビングへ」
「えっと、昨日貰った執事服をですよね」
「もちろん。さくっとヨロシク」

 そういうと、近衛凪咲さんはパタパタと部屋を出て行った。
 僕は服を着替えて、リビングへ。
 しばらくすると……スミスさんが現れた。

「お待たせいたしました、ベディヴィエール」
「スミスさん、あなたのそれは詐欺です」

 第一声が暴言になったのは許して欲しい。
 いやさ、ガチで別人なんだもん。
 長い髪はどこかへ行って、ウルフカットになってるし。
 でもって、片眼鏡パワーもあって本当に別人!

「詐欺とは失礼な。この程度を軽くこなしてこそのタカラジェンヌです」

 堂々と言い切った。
 もうここまでくると、いっそ清々しい。

「では、部室へ行きましょうか」
「へ? この状態で外を歩くんですか」
「まさか」

 スミスさんは、にっこりと微笑む。

「地下通路を通るに決まっています」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「なるほど……だから、執事喫茶部の面々は正体バレしないのか」

 学生寮にあった地下へ続く階段。
 そこを降りて、3分ほど歩いたら、あら不思議。
 旧校舎1階の大会議室の中にある小部屋に到着した。

「ちなみに、ボクも同じルートでこの学園に来てまーす♪」
「そうだった。アルフレッドさん、いや、小学生が毎日来ているって噂も聞かない」

 以前、セバスチャンさんとスミスさん不在で締め出された時があった。
 あれは、彼らは通常の入り口からは来ないから、という意味だったと。
 分かるか―――――ッ!

「さて、喫茶が始まる前に、改めて自己紹介をしましょう」

 すると、スミスさんは優雅に一礼する。
 またこれがサマになりすぎているのに、嫌味の一つもない。

「近衛凪咲、中学2年。将来の夢はタカラジェンヌで男役のトップになること」
「そんな人が、なんで執事喫茶部なんかを……」
「面接などで、記憶に残るぐらいのインパクトがある加点が欲しい」

 直球!?
 将来の夢への踏み台、みたいな言い方をしたよ、この人!?

「タカラジェンヌになるには、全国でたった1校しかない学校への入学が必須」
「え? そうなんですか」
「チャンスは最大で4回。倍率は12倍近く、15~18歳の条件付き」

 うわっ、そんな条件があったんだ。
 え、アイドルとかよりも厳しすぎない?

「学校を卒業後に待つ、入団試験をクリアして、初めてスタートラインなの」

 ひー……なにそれ怖い。
 東大へ進学する方が、よっぽど簡単に聞こえてくるんですけど。

「容姿、バレエ、歌、演技力はあって当然。みな、同等以上の技量で来ます」
「は、はい」
「なら、どこで差をつけるか? 圧倒的な個性よ」
「スミス先輩は、そりゃもう超合理&完璧主義だからね」

 昨日の訓練でわかったでしょー? とアルフレッドさんが言う。
 はい、そりゃもちろん。

「ですが、執事喫茶部を利用させて頂く以上、わたくしも全力で役目を全うします」
「……スミスさん」
「どんなことでも本気でやらずして、何かを成せるというのでしょう」

 そっか……
 僕が、琴音の一番星になりたい理由と、同じなのかも。

「それに、男役でトップを取るなら、女性がキュンとするコトを積極的に学ばねば」
「わー、さっすがスミス先輩。執事喫茶部をしゃぶりつくす気だ~」
「黙りなさいアルフレッド。さて、そろそろ開店時間ですよ」

 おっと、そうだった。
 今日から僕も、正式に部員としてここで働くことになる。
 といっても、まずは雰囲気に慣れるために、簡単な雑用がメインだけど。

「となると~、まずやるべきは?」
「彼の変身です」

 目をキラーンと光らせながら、2人が僕を見た。
 え? なにごと?

「今のままでは、春樹お兄ちゃんと1発でバレちゃうわけで~」
「正しくベディヴィエールに変身しましょうか」

 ジリジリと怖い顔で近づいてくる彼らに、思わず後ずさりする。
 が、一瞬で拘束され

「「さぁ、変身タイム」」
「ぎゃ――――ッ! 顔が怖い―――ッ!」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 10分後。
 ガチャリと小部屋から合流したセバスチャンさんは、開口一番に

「くくくっ、見違えたなベティくん」

 と、笑いながら声をかけてきた。

「遅いですよ、セバスチャンさん……あと、チェンジを要求します」
「可愛い系執事として、立派じゃないか」
「そういうのは、アルフレッドさんで間に合っているでしょ―――ッ!」
「残念で~した。ボクは弟、キミは可愛い。ジャンルが違う」
「どこが!?」

 さて、2人によって大変身させられた僕。
 女の子に見える、という可愛さではない。
 自分でも見違えるほどの美少年になってて、驚いてはいるんだよ。
 ただね? 可愛いんだよ。
 ゆるくウェーブのかかった髪。
 化粧の影響か、いつも以上に大きく見える目。
 猫のように見える口元。
 誰もが毒気を抜かれてしまう、とはまさにこのことである。

「ベディヴィエールは、王の執事で、もっと……凛々しくても!」
「あなたの個性を存分に生かした結果です」
「うれしくねぇ―――――ッ!」