診察対象外なのに、冷徹外科医に逃がしてもらえません

「……また、気持ち悪い」

 洗面台に手をつく。

 朝なのに、もう何も食べたくない。

 さっきまで大丈夫だったのに、急に波が来る。

「……っ」

 吐き気をこらえる。

 でも。

「……白石」

「……っ」

 低い声。

 振り返る前に、背中に手が添えられる。

「……凌さん」

「無理をするな」

 短く言う。

 そのまま、支えるように抱き寄せられる。

     ◇

「……またか」

「……うん」

 小さく頷く。

「大丈夫です」

「大丈夫ではない」

 即答だった。

     ◇

 水を差し出される。

「少しずつ飲め」

「……はい」

 言われた通りにする。

     ◇

「……朝食はやめろ」

「え?」

「無理に食べる必要はない」

 医者の声だった。

 迷いがない。

「……でも」

「今は栄養より、体調優先だ」

     ◇

「……」

 少しだけ驚く。

 いつもは“ちゃんと食べろ”なのに。

     ◇

「……先生っぽいですね」

「医者だ」

「……そうでした」

 少しだけ笑う。

     ◇

「……仕事は」

「休む」

 即答。

「……え?」

「今日は行かせない」

     ◇

「……そんな大げさな」

「大げさではない」

 低く言う。

「初期は不安定だ」

     ◇

 その目は、本気だった。

     ◇

「……」

 少しだけ、胸が温かくなる。

「……わかりました」

 素直に頷く。

     ◇

 その瞬間。

 そっと頭を撫でられる。

「……いい判断だ」

     ◇

 こんなふうに甘やかされるなんて、思ってなかった。

     ◇

(……逃げられない)

 でも。

 それが、安心する。