花子さんの引っ越し

 ついてきた。
 俺は黒板を見ながらごくりとつばを飲みこんだ。
 トイレで出会ってしまった花子さんがついてきた。
 さっきトイレで急に頭痛がしてきておかしいなと上を向いたら、俺と同じ小学生に見えるおかっぱの女子が俺の頭を両側から押さえつけていた。そして、目があってしまった。多分それがいけなかった。
 俺はドキドキしてしまって授業どころではなくなった。そっと後ろを振り返ると、花子さんがにたりと笑った。俺は慌てて前に向き直った。
 まわりを見回すが、クラスのみんなは気づいてないようだ。先生だって普通に授業を続けている。きっとみんなには花子さんは見えてないんだ。
 どうしよう。まさか学校を出て家までついてくるなんてこと、ないよな?
 そのうち授業は終わって放課後になった。俺はいちもくさんに教室を飛び出した。
 ついてくる!
 校舎を出てもついてくる。どうしよう。このままとりつかれてしまったら、いっかんの終わりだ!
「よう、博ー」
 校庭で友達の和樹に肩を叩かれた。俺は飛び上がりそうになるのをなんとかこらえた。
「博、今日うちに遊びにこねえ? 前言ってたゲーム買ったからさ」
 それだ!
 俺はひらめいた。このまんま和樹のうちに行って俺がトイレに入れば、花子さんは「小学校のトイレの花子さん」から「和樹んちのトイレの花子さん」になるに違いない。
「お、おう! 行く行くー!」
 ごめん! 許してくれ、和樹!
 こうして俺と和樹と花子さんは和樹の家へと向かった。
 俺はまずトイレを借りた。花子さんはやはりトイレの中にまでついてきやがった。俺はすぐトイレを出て「ごめん、用事思い出した!」と和樹の家を飛び出した。
 和樹の家からかなり離れたところで振り返る。花子さんはついてきていなかった。
 俺はほっとした。と同時に罪悪感におそわれた。
 無事でいろよ、和樹。

   ***

「あー、良かった。うちのトイレから出ていってくれたみたいだな。トイレの太郎くん」
 ごめんな、博。太郎のやつ、トイレに入るたび毎回俺の首を締めるんだよ。だから怖くてトイレに長くいられなくなっちゃったんだよ。
「まあ、博には見えてないみたいだから大丈夫だろ。……てか、あれ? なんか頭が締め付けられるみたいに痛くなってきたな」