律の絵は、会うたびに少しずつ変わっていた。
最初に見たときは、まだ光があるだけだった。
川沿いの道と、夕方みたいな色と、風の気配。
それだけで十分きれいだったのに、律は何度見ても首をかしげた。
「まだ違う」
よく、そう言っていた。
私には何が違うのか分からなかった。
でも次に見ると、空や影や川の光が少しずつ変わっていて、
ちゃんと完成へ近づいていた。
付き合うようになってからも、私たちの毎日は急には変わらなかった。
学校で会う。
昼休みに少し話す。
放課後、一緒に帰る日がある。
メッセージが来る。
そういうことの積み重ねだった。
朝、昇降口で律を見つける。
そんなことを考えているうちに、律がいつも通りの顔で言う。
「おはよ、水瀬」
律は、付き合ったあとも律のままだった。
変に気取ったりしない。
急に距離を詰めすぎたりもしない。
でも前より少しだけ、自然に私の隣にいた。
秋が終わって、冬が来るころには、
私は美術科棟に行くことにすっかり慣れていた。
普通科の校舎を出て、少し静かな廊下を歩く。
絵の具と紙のにおい。
開いたままの扉。
床についた色の跡。
今はその空気に入ると少しほっとする。
「いた」
美術室の扉から顔を出すと、律がたいていそう言う。
私は笑って、「いるよ」と返す。
ある日、私はいつものように美術室の隅の席に座っていた。
律はキャンバスの前に立っている。
窓の外は、もう早く暗くなる季節だった。
筆を持つ手が動く。
少し離れて見る。
また近づく。
絵の具を混ぜる。
その繰り返しを、私は黙って見ていた。
描いているときの律は、少しだけ遠い。
「また見てる」
ふいに律が言う。
私は本を読んでいるふりをしていたけれど、たぶんあまり意味はなかった。
「見てない」
「見てる」
「……少しだけ」
そう答えると、律が笑う。
「最近そればっか」
「ほんとに少しだけだから」
「じゃあ、少しだけの感想ちょうだい」
私は立ち上がって、キャンバスの近くへ行く。
最初に見たときより、ずっと絵になっていた。
最初に見たときは、まだ光があるだけだった。
川沿いの道と、夕方みたいな色と、風の気配。
それだけで十分きれいだったのに、律は何度見ても首をかしげた。
「まだ違う」
よく、そう言っていた。
私には何が違うのか分からなかった。
でも次に見ると、空や影や川の光が少しずつ変わっていて、
ちゃんと完成へ近づいていた。
付き合うようになってからも、私たちの毎日は急には変わらなかった。
学校で会う。
昼休みに少し話す。
放課後、一緒に帰る日がある。
メッセージが来る。
そういうことの積み重ねだった。
朝、昇降口で律を見つける。
そんなことを考えているうちに、律がいつも通りの顔で言う。
「おはよ、水瀬」
律は、付き合ったあとも律のままだった。
変に気取ったりしない。
急に距離を詰めすぎたりもしない。
でも前より少しだけ、自然に私の隣にいた。
秋が終わって、冬が来るころには、
私は美術科棟に行くことにすっかり慣れていた。
普通科の校舎を出て、少し静かな廊下を歩く。
絵の具と紙のにおい。
開いたままの扉。
床についた色の跡。
今はその空気に入ると少しほっとする。
「いた」
美術室の扉から顔を出すと、律がたいていそう言う。
私は笑って、「いるよ」と返す。
ある日、私はいつものように美術室の隅の席に座っていた。
律はキャンバスの前に立っている。
窓の外は、もう早く暗くなる季節だった。
筆を持つ手が動く。
少し離れて見る。
また近づく。
絵の具を混ぜる。
その繰り返しを、私は黙って見ていた。
描いているときの律は、少しだけ遠い。
「また見てる」
ふいに律が言う。
私は本を読んでいるふりをしていたけれど、たぶんあまり意味はなかった。
「見てない」
「見てる」
「……少しだけ」
そう答えると、律が笑う。
「最近そればっか」
「ほんとに少しだけだから」
「じゃあ、少しだけの感想ちょうだい」
私は立ち上がって、キャンバスの近くへ行く。
最初に見たときより、ずっと絵になっていた。


