君に届くのは、10分の1だけ

病院
今日はきつい
寝てた
明日たぶん無理

そういう文が増える。

私は前と同じように返す。

無理しないで
返事いらないよ
休んで

でも、送ったあとにいつも思う。

本当は返事がほしい。
本当は、少しでもいいから声が聞きたい。

そう思うのに、
それを言うことはできなかった。

律がしんどいときに、
自分のさみしさを出すのは違う気がしたからだ。

ある日の放課後、
私は美術室の隅で、完成したあの絵を見ていた。

もう途中じゃない絵。
完成したはずの景色。

でも今の私には、
その絵が少しだけ遠く見えた。

終わったあとも続くと思っていた時間が、
また少しずつ揺れ始めているからだと思った。

律はその日、来なかった。

来られない、と昼すぎに短い連絡だけがあった。

私は一人で椅子に座って、
机の上に置いたスマホを何度も見た。

画面は暗いままだった。

ふと、鞄の中の小さなメモ帳に手が伸びる。

開いたページの端に、
私は何も考えないまま数字を書いていた。

18
19
20
21
22
23

その並びを見た瞬間、
自分で書いたくせに、ぞっとする。

私はすぐにページを閉じた。

まだ早い、と思った。
まだ何も決まっていない。
まだ前みたいに悪いと決まったわけじゃない。

でも、指はもう数字を書いていた。

それが、いちばん怖かった。

夜、ベッドに入っても眠れなかった。

スマホを見る。
時計を見る。
またスマホを見る。

前にもあった。
こうやって、連絡を待って、
会える日を数えて、
少しずつ減っていく感じに怯えていた夜が。

まただ、と思った。

また、同じ場所へ戻りかけている。

でも、前と違うこともある。

今の私は、悪魔を知っている。
取引を知っている。
一度、時間を買ったことを知っている。

そのことが、
希望じゃなくて、静かな恐ろしさとして
胸の奥に沈んでいた。

助けたい。

その気持ちは、消えていなかった。
むしろ前より、ずっと静かで、
ずっと深いところにあった。

だからこそ、
私はその言葉をできるだけ考えないようにした。

考えたら、何かが動き出してしまいそうだったからだ。

窓の外は暗い。
部屋の中も静かだった。

私は毛布を胸まで引き上げる。

目を閉じると浮かぶのは、
今日見た完成した絵じゃない。

美術室の机の上に、
何も考えないまま並べてしまった数字だった。

18
19
20
21
22
23

そこから先を、
私はまだ書かなかった。

でもたぶん、
心のどこかでは、もう数え始めていた。