入学式の日、私は少しだけ早く家を出た。
遅れたくなかった。
目立ちたくもなかった。
県立北浜高校の校門の前で、一度だけ立ち止まる。
ここに来るまで、何度も駅名を確認した。
でも、ちゃんと着けた。
それだけで十分だった。
校門をくぐる。
知らない顔ばかりで、少しだけ安心する。
誰も私を知らない。
中学の水瀬柚希を、ここに持ち込まなくていい。
そう思った。
式が終わって、教室に移動する。
私のクラスは一年三組だった。
廊下に貼られた名簿を見る。
自分の名前を探す。
水瀬 柚希
ちゃんと、あった。
教室に入って、自分の席に座る。
担任の先生が来て、出席を取り始めた。
一人ずつ、名前が呼ばれる。
「水瀬」
そう呼ばれて、顔を上げる。
「はい」
ちゃんと声が出た。
それだけのことで、少しだけ泣きたくなった。
水瀬柚希。
その名前で、ここにいる。
透明じゃない。
最初から、ここにいていいことになっている。
午前中は、あっという間に終わった。
昼休みになって、私は教室を出た。
まだみんなの輪の中に入る勇気はない。
購買でパンを買って、渡り廊下に出る。
ひとりのほうが、落ち着いた。
袋を開けようとした、そのとき。
「……水瀬?」
後ろから、名前を呼ばれた。
その声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
私は振り向いた。
息が止まりそうになった。
そこにいたのは、瀬川律だった。
遅れたくなかった。
目立ちたくもなかった。
県立北浜高校の校門の前で、一度だけ立ち止まる。
ここに来るまで、何度も駅名を確認した。
でも、ちゃんと着けた。
それだけで十分だった。
校門をくぐる。
知らない顔ばかりで、少しだけ安心する。
誰も私を知らない。
中学の水瀬柚希を、ここに持ち込まなくていい。
そう思った。
式が終わって、教室に移動する。
私のクラスは一年三組だった。
廊下に貼られた名簿を見る。
自分の名前を探す。
水瀬 柚希
ちゃんと、あった。
教室に入って、自分の席に座る。
担任の先生が来て、出席を取り始めた。
一人ずつ、名前が呼ばれる。
「水瀬」
そう呼ばれて、顔を上げる。
「はい」
ちゃんと声が出た。
それだけのことで、少しだけ泣きたくなった。
水瀬柚希。
その名前で、ここにいる。
透明じゃない。
最初から、ここにいていいことになっている。
午前中は、あっという間に終わった。
昼休みになって、私は教室を出た。
まだみんなの輪の中に入る勇気はない。
購買でパンを買って、渡り廊下に出る。
ひとりのほうが、落ち着いた。
袋を開けようとした、そのとき。
「……水瀬?」
後ろから、名前を呼ばれた。
その声を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
私は振り向いた。
息が止まりそうになった。
そこにいたのは、瀬川律だった。


