「嬉しい」


小さく呟いたあと、ほんの少しだけ距離が縮まった。

——逃げないのか。

いや、違う。

逃げる気がない。

その瞳が、そう言っている。


「じゃあ……」

奈桜がゆっくりと口を開く。


「私のこと、どう思ってる?」

試すような声。

——分かってて聞いてるだろ。

一歩、踏み出す。

さっきよりも、近い距離。


「……分かってるくせに」


低く抑えた声で、そう返す。
けれど、その視線からは逃げられない。


「教えてほしいなら——」

そこで言葉を切る。

奈桜の喉が、小さく動くのが見えた。

「先生呼び、やめてからだな」


「……っ」

一瞬、言葉に詰まる奈桜。

それでも、目は逸らさない。


「……意地悪」

小さく拗ねた声で、少しむくれる。
そんなところも、可愛いと思っていじめたくなる。



「……想」


────その一言で、全部もっていかれた。

ドクンと、心臓が大きく鳴る。

無邪気な瞳が、理性を奪う。

名前を呼ばれるだけで、こんなにも破壊力があるなんて……




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