夕焼けに染まる海。
誰もいない浜辺は、少し寂しそうで。
言葉もなく少し歩いて、転がっていた大きな木に並んで座った。

波の音だけが、静かに繰り返されている。


繋いだ手は、当たり前みたいにそのまま。

「奈桜…」


不意に先生が名前を呼んだ。

「……?」

私は海から先生へと視線を移して、首を傾げる。


先生はすぐには続けなかった。
何かを迷うように、ほんの少しだけ視線を落とす。

その沈黙がいつもと違う空気を作った。


「…ちゃんと言っておく」

低く、静かな声。

胸が、ざわつく。


「俺、結婚してる」


分かってた。でも途中からずっと、見て見ぬふりをしていたのかもしれない。

廊下で聞いたあの電話。
指輪のない薬指。

違和感はずっとあった。


それでも、実際に言葉にされると、息が詰まる。

「…うん」

小さく、頷く。

それ以上、何も言えなかった。


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