桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

颯太――。


「りあ……たん?」


初めて会った日のことは、今でも覚えている。
大きな目で、じっと私のことを見ていた。

六歳のときにできた、ひとつ下の弟。

私の名前を呼ぶ舌足らずな発音も、
後ろを一生懸命ついてくるところも、
すぐ泣くところも――全部、可愛かった。

それなのに……。


「なんで、こうなっちゃったんだろう……」


自分の部屋のベッドに寝転びながら、ぼんやり天井を見上げる。

停電のあの日から、一週間。

颯太の態度は、まだどこかよそよそしい。

朝は部活の朝練があるのか、ほとんど顔を合わせない。

というより……たぶん、避けられてる。

それに、たまに顔を合わせても様子がおかしい。

例えば、この前の夜ご飯の時――。


「颯太、醤油取って?」

「……」

隣に座る颯太に声をかけるも、返事がない。

「聞こえてるでしょ?」

「……」

完全に無視。

テーブルの向かいでは、敦兄と俊兄がじっと私たちを見ている。

「もういい」

自分で取ろうと、立ち上がろうとすると、

「ほら」

颯太の前に座っていた俊兄が、すっと醤油を差し出してくれた。

「ありがと」

受け取ったその時。


「……おまえはガキか」


反対隣から、低い声。

隼人が颯太を冷たい目で見ている。

颯太は何も言わない。

でも、ゆっくりと顔を上げて、隼人を見返した。
その目は、どこか刺すようだった。

私を挟んで、また妙な空気が流れる。

「もういいからっ。ほら、食べよ?」

慌ててそう言うと、隼人は小さく舌打ちして颯太から視線を外した。

その様子を見ていた敦兄が、軽い調子で口を挟む。

「はいはい隼人くん。カリカリしないの」

「してねえから」

「ほら、お兄様がトマト分けてあげるから。機嫌直しなさい」

そう言って、敦兄は自分の皿のトマトを隼人の皿へ移した。

「……お前の嫌いな食べ物押し付けてるだけだろ」

「人聞き悪いなー!」

大げさなリアクション。

「もう、あっちゃん。ちゃんとトマト食べなきゃダメだよ?」

「……はい」

敦兄はしょんぼりして、トマトを自分の皿に戻した。

その様子を見ていた俊兄が、ぼそっと言う。

「ガキはこいつだな」

「……あ?」

敦兄が俊兄を睨む。

一瞬、喧嘩の気配。

止めようと口を開きかけると、隣で椅子が引かれる音がした。

「……ご馳走様」

小さく呟いて、颯太が立ち上がる。

そのままダイニングを出ていった。

静かすぎる、その背中。

敦兄と俊兄が顔を見合わせる。

隣で、隼人が小さく息を吐いた。

私は、眉を下げたまま、その後ろ姿を見ていた。