桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

「ただいまー」

玄関を開けると、人の気配はなかった。

帰り道でぽつぽつ降り始めていた雨も、まだ本降りにはなっていない。
強くなる前に帰ってこられて、少しほっとする。

濡れた髪を拭こうと、洗面所へ向かう。

ふと、リビングに灯りがついているのに気づいた。

のぞくと、隼人の後ろ姿が見える。

……帰ってたんだ。

声をかけようとして、足を止める。

テーブルの上には、昨日昌枝さんにもらった花。

隼人は花鋏を手に、茎を少しだけ切り揃えている。

無駄のない、静かな動き。

そのまま花瓶の水を替え、整えるように花を挿し直した。

ぽた、と水滴が落ちる。

隼人は軽く手首を振って、水を切った。

その仕草まで、なぜか無駄がなくて。

私は声をかけるのも忘れて、しばらくその背中を見ていた。

窓の外は、いつの間にか少し暗くなっていた。
雨雲のせいで、昼なのに部屋の灯りがやけに明るく見える。


気配に気づいた隼人が振り返る。


「た、ただいま」


目が合って、なぜか少し焦る。

「……ああ」

「花、手入れしてくれてるの?」

隼人は花鋏をそっとテーブルに置いた。

「……切っとかないと、すぐ弱る」

そう言って、花の向きを指先で少しだけ直す。

「……ありがとう」


会話が途切れ、リビングが静かになる。

なんだか落ち着かなくて、言葉を探す。

「えーと……」


隼人がすっと立ち上がる。

その視線が、私の顔に一度だけ触れた。


「……学校」


「え?」


「慣れたか」

一瞬、言葉に詰まる。

「……う、うん。大丈夫だよ」

隼人は小さく頷いた。

「……そうか」

……なんで、そんなこと。

少しだけ間があく。

「無理すんな」

それだけ言うと、隼人は何も続けなかった。