桐生家のダイニングにはドアがない。
廊下との間が広く開いているから、人が通ればそのまま見える。
顔を上げると、学ラン姿の隼人が歩いてくるところだった。
……今帰ってきたんだ。
その背中から、なぜか目が離せなかった。
そのまま通り過ぎようとしたところで、
「おい隼人! ただいまだろ!」
敦兄が声を張った。
「昌枝さんに挨拶」
俊兄もすぐに続く。
隼人は一瞬だけ足を止める。
ちらりとこちらに視線を向けたあと、振り返りもせず短く言った。
「……ただいま、昌枝」
え。
まさかの、呼び捨て……?
テーブルの空気が、ほんの一瞬止まる。
隼人はそのまま廊下を歩いて行った。
「……ほら、隼人兄だって」
颯太が得意げに言う。
俊兄は小さくため息をついた。
「すみません、昌枝さん」
「いいんだよ!」
昌枝さんはけらけら笑う。
「みんな好きに呼んでくれたら。
隼人くんみたいないい男に呼ばれたら、私も若返るってもんよ」
「旦那に怒られるぞー」
茶化す颯太の手を、ばしっと叩いた。
「いてっ」
「なんだよ、昌枝ちゃんは俺一筋だろ」
敦兄が不満げに言うと、
昌枝さんはくすっと笑った。
「なーに言ってんの。あっちゃんモテるんだから。昌枝ちゃんのことなんて相手してないくせに」
敦兄は唐揚げを口に放り込みながら反論する。
「なんだよ。隼人だって女には不自由してないだろ」
「っ……」
思わず手が止まった。
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
……なんで、今それ言うの。
別に、気にすることじゃないのに。
「姉ちゃん、唐揚げいらないの?」
颯太が不思議そうに私を覗き込む。
気づけば、箸を持ったまま少し固まっていたらしい。
「あ、ううん――」
言い終わる前に、
私の皿の唐揚げを、颯太がひょいと取った。
「あ!」
「やった、ラッキー」
颯太は気にする様子もなく、唐揚げを口に放り込む。
「おい颯太、りあの取んなよ」
敦兄が笑う。
食卓は、またいつもの騒がしさに戻っていった。
廊下との間が広く開いているから、人が通ればそのまま見える。
顔を上げると、学ラン姿の隼人が歩いてくるところだった。
……今帰ってきたんだ。
その背中から、なぜか目が離せなかった。
そのまま通り過ぎようとしたところで、
「おい隼人! ただいまだろ!」
敦兄が声を張った。
「昌枝さんに挨拶」
俊兄もすぐに続く。
隼人は一瞬だけ足を止める。
ちらりとこちらに視線を向けたあと、振り返りもせず短く言った。
「……ただいま、昌枝」
え。
まさかの、呼び捨て……?
テーブルの空気が、ほんの一瞬止まる。
隼人はそのまま廊下を歩いて行った。
「……ほら、隼人兄だって」
颯太が得意げに言う。
俊兄は小さくため息をついた。
「すみません、昌枝さん」
「いいんだよ!」
昌枝さんはけらけら笑う。
「みんな好きに呼んでくれたら。
隼人くんみたいないい男に呼ばれたら、私も若返るってもんよ」
「旦那に怒られるぞー」
茶化す颯太の手を、ばしっと叩いた。
「いてっ」
「なんだよ、昌枝ちゃんは俺一筋だろ」
敦兄が不満げに言うと、
昌枝さんはくすっと笑った。
「なーに言ってんの。あっちゃんモテるんだから。昌枝ちゃんのことなんて相手してないくせに」
敦兄は唐揚げを口に放り込みながら反論する。
「なんだよ。隼人だって女には不自由してないだろ」
「っ……」
思わず手が止まった。
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
……なんで、今それ言うの。
別に、気にすることじゃないのに。
「姉ちゃん、唐揚げいらないの?」
颯太が不思議そうに私を覗き込む。
気づけば、箸を持ったまま少し固まっていたらしい。
「あ、ううん――」
言い終わる前に、
私の皿の唐揚げを、颯太がひょいと取った。
「あ!」
「やった、ラッキー」
颯太は気にする様子もなく、唐揚げを口に放り込む。
「おい颯太、りあの取んなよ」
敦兄が笑う。
食卓は、またいつもの騒がしさに戻っていった。
