桐生家の四兄弟と私〜義兄弟に囲まれてます〜

桐生家のダイニングにはドアがない。
廊下との間が広く開いているから、人が通ればそのまま見える。

顔を上げると、学ラン姿の隼人が歩いてくるところだった。

……今帰ってきたんだ。

その背中から、なぜか目が離せなかった。

そのまま通り過ぎようとしたところで、


「おい隼人! ただいまだろ!」


敦兄が声を張った。

「昌枝さんに挨拶」

俊兄もすぐに続く。

隼人は一瞬だけ足を止める。

ちらりとこちらに視線を向けたあと、振り返りもせず短く言った。


「……ただいま、昌枝」


え。

まさかの、呼び捨て……?

テーブルの空気が、ほんの一瞬止まる。

隼人はそのまま廊下を歩いて行った。

「……ほら、隼人兄だって」

颯太が得意げに言う。

俊兄は小さくため息をついた。

「すみません、昌枝さん」

「いいんだよ!」

昌枝さんはけらけら笑う。

「みんな好きに呼んでくれたら。
隼人くんみたいないい男に呼ばれたら、私も若返るってもんよ」

「旦那に怒られるぞー」

茶化す颯太の手を、ばしっと叩いた。

「いてっ」

「なんだよ、昌枝ちゃんは俺一筋だろ」

敦兄が不満げに言うと、
昌枝さんはくすっと笑った。

「なーに言ってんの。あっちゃんモテるんだから。昌枝ちゃんのことなんて相手してないくせに」

敦兄は唐揚げを口に放り込みながら反論する。

「なんだよ。隼人だって女には不自由してないだろ」

「っ……」

思わず手が止まった。

胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。

……なんで、今それ言うの。

別に、気にすることじゃないのに。

「姉ちゃん、唐揚げいらないの?」

颯太が不思議そうに私を覗き込む。

気づけば、箸を持ったまま少し固まっていたらしい。

「あ、ううん――」

言い終わる前に、

私の皿の唐揚げを、颯太がひょいと取った。

「あ!」

「やった、ラッキー」

颯太は気にする様子もなく、唐揚げを口に放り込む。

「おい颯太、りあの取んなよ」

敦兄が笑う。

食卓は、またいつもの騒がしさに戻っていった。