桜の木の下と

「おい、知ってるか? 桜の木の下に埋まってるもの!」
 隼人にそう言われた俺は得意気に笑った。
「知ってる、知ってる。死体だろ。姉ちゃんに聞いたことある。さかぐちなんとかっていう奴の小説だ。あれ? かじいなんとかだったかな?」
「ちっげーよ!」
 隼人は「ちっちっ」と指を左右にふった。
「小説じゃねえよ。都市伝説だよ。桜の木の下にはな、ミイラが埋まってることがあんだとよ」
「ミイラ? 普通に腐るんじゃね?」
「だから都市伝説なんだよ! な? 今日掘りに行かね? 俺、ミイラ見たい!」
 俺はたじろいだ。俺はもうこの春中学生になる。この年で都市伝説を信じたわけではない。が、何か別の死骸でも出てくるかもしれない。気持ち悪いことは確かだ。
 隼人はにやにやと俺を見てくる。
「お前、怖いんだろー?」
「んなことねえよ! わかったよ、掘ってやるよ」

 夜がふけてきた。俺たちはシャベルを持って待ち合わせをした。場所は春休み中の小学校の桜の木の下だ。見上げると花はまだつぼみだった。
「よーし、掘ろうぜ!」
 隼人が勢いこんで土を掘り返し始めた。その時だ。
「こら! 何やってる!」
「やべえ、用務員さんだ!」
 俺はすぐ逃げようとした。が、隼人はまだ土を掘っている。
「早く逃げようぜ」
 そう促すが、隼人は動かない。
「いや、待て。マジでなんか埋まって……」
「早く!」
 隼人は固まったまま動かない。仕方なく俺は一人で逃げることにした。
 
 そして迎えた入学式。そこには隼人の姿はなかった。

   ***
「田中先生、今年も桜が満開ですね!」
「ああ。町田先生、今年の桜は特に色鮮やかですよ。さすがは用務員さんだ」
「ははは、恐縮です。今年はたくさん肥料をやったので」
「毎年、用務員さんのおかげで、我々は花見を楽しめますよ」