野球、やりませんか⁉

「野球がやりたいのにできないツラさは、ぼくもよく知ってるから。それに、今のぼくには、ここしか選択肢がないしね」

「そういやつっちーの親、よくここに来んの、許してくれたよな。あー、でもここって高等部の医学部進学率、めっちゃいいんだっけ?」

 八柳くんが何気なくそんなことを言うと、土谷くんが曖昧な表情を浮かべる。


 そっか。そういう理由でここを選んでいる子もいるんだ。


「そうだなあ。ま、つっちーがいいと思うなら、おれもやるかあ」

 八柳くんが軽い調子で言う。


「ほ、本当に? ありがとう!」

 うれしくなって、ぎゅっと両手を胸の前で握りしめる。


「ちなみに、アイツもやるんだろ? 『魔王様』」

「ち、ちょっと八柳くん。そういう言い方はやめなよ」

 八柳くんが教室のすみっこに立っている渡瀬くんをあごで示すと、土谷くんが慌てて八柳くんをたしなめる。


「『魔王様』?」


 渡瀬くんが『魔王様』って、どういうこと? あだ名?


 わたしが首をかしげていたら、土谷くんが止めるのもムシして、八柳くんが続けて言う。


「ピッチャーに、絶対に首を振らせない『孤高の魔王様』。おれもどうせならそんなかっけー二つ名がよかったわー」

 からからと笑う八柳くんに対し、渡瀬くんは、黙ったまま複雑な表情を浮かべている。