学校に着くとすぐ、わたしは屋上へと続く人気のない階段の下に渡瀬くんを呼び出した。
「有沢の弟? なんの話だ」
わたしの問いに、渡瀬くんが戸惑いの表情を浮かべる。
「だからっ、有沢くんの双子の弟が起こしたっていう暴力事件について、詳しく教えてほしいの。そのせいでチームにいられなくなったって。有沢くんに、そう聞いたの。でも、それ以上は教えてくれなくて」
「……」
渡瀬くんが、考え込むような表情であごに手を当てたまま黙りこくっている。
「ねえ! なにがあったのか、渡瀬くんは知ってるんだよね?」
強めの口調でもう一度たずねると、渡瀬くんがハッと我に返ったような顔をする。
「ああ……すまない。僕が知っている内容とは、少し違うみたいだ」
「えっ、どういうこと?」
「弟ではなく、有沢本人が暴力事件を起こしたと。僕は、そう聞いている」
「有沢くんが……?」
「春の大会の決勝で有沢が打席に立った際、指にデッドボールをくらって、そのまま降板することになったらしい。その腹いせに、相手ピッチャーが一人でいるところを狙って人気のない場所に連れ込み、殴ってケガさせたと。僕が知っているのは、それだけだ」
「えーっと……それってひょっとして、本当は有沢くんの弟が殴ったのに、有沢くん本人と勘違いしてウワサが広まっちゃった……ってこと?」
「有沢の言ったことが本当なら、そういうことになるな」



