「竜崎監督がいないのなら、僕は野球部に入るつもりはない」
メガネを中指で押しあげつつキッパリと言い切ったのは、隣のクラスの渡瀬陸玖くん。
ポジションはキャッチャー。細身で、長身の有沢くんよりもさらに背が高い。
五時間目の休み時間、有沢くんに付き添ってもらって、さっそく勧誘活動をはじめたんだけど、一人目からこのありさまだ。
渡瀬くんが、わたしの隣に立つ有沢くんをちらりと見る。
「……そもそも竜崎監督に声をかけられていなければ、野球はやめるつもりでいた。バレー部に誘われているから、そちらへ行くつもりだ」
えぇっ、渡瀬くんまでやめるつもりだったの⁉
「でも、野球をするために星黎学園に来たんだよね?」
「何度も同じことを言わせるな。竜崎監督がいないのなら、入るつもりはない。それに……」
「『それに』?」
「……いや、なんでもない」
そう言うと、くるりときびすを返して教室の中へと戻っていってしまった。
「え、ち、ちょっと待ってよ!」
渡瀬くんの背中がどんどん遠ざかっていき、助けを求めるように有沢くんの顔を見あげる。
けど有沢くんは、小さく肩をすくめるだけ。
そんなあ……。



