今日から野球部はじめますっ!

「わたしに野球部の指導はムリですよ」

 わたしが担任の猪尾先生に頭を下げると、先生は眉尻を下げ、困ったような顔をする。


 猪尾先生は、髪の毛のほとんどが真っ白で、おそらくあと数年で定年を迎えそうな年配の先生だ。

 わたしだって、野球の指導までは期待していない。


「名前だけでいいんです。野球部を作るためには、どうしても顧問の先生が必要で。練習は、自分たちでちゃんとやります。先生には絶対ご迷惑をおかけしません。この学校に野球をしに来たみんなに、野球ができる場所をどうしても作りたいんです。お願いします!」

 猪尾先生に向かってもう一度頭を下げると、そのまましばらく沈黙のときがすぎる。


「……そうですか。わかりました。本当に名前だけでよければ、いいですよ」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」


「――君、ちょっといいかな?」


 その声にハッとして振り向くと、予想通り理事長先生が立っていた。


「さきほどの件ですけどね。4月29日に一校、練習試合を申し込んでおきましたから」


 えぇっ、ちょっと待ってよ。もう決まったの⁉

 理事長先生、仕事早すぎじゃない⁇


「たしか、市大会ではベスト4常連の月瀬中学さん……でしたかねえ。とはいえ、毎年県大会止まりらしいですし、このくらいのレベルの学校になら余裕で勝ってもらわないと、前理事長が目標として掲げていた全国制覇など夢のまた夢ですからねえ」

 そう言って、理事長先生がニタニタと笑う。