金平牛蒡に使う材料は簡単だ。にんじん、ごぼうがあれば作れてしまう。あとは味付け次第で変わってくるが、小夜と旦那はピリ辛が好きなので、七味をほんのり入れる。フライパンも使わないのでお手軽な一品だ。
「むぎ?よいしょ~!」
旦那は皿を並べ終わった後に愛犬の”むぎ”と戯れていた。おもちゃを投げたり、引っ張り合ったりした。
旦那は溺愛な愛妻家だが、愛犬にも同じように溺愛している。彼はすぐに褒めてお菓子をあげる。おもちゃを持って来れたらお菓子、お散歩に行ったらお菓子。そのせいで毎月のペットショップでの検診で毎回お決まりのようにお叱りを受ける。
少し体重が太ってきてますね!もう少し痩せましょうか!って。
もちろん2人は今までの人生で犬を飼ったことはない。旦那から言い出したことだが、小夜はやっぱり飼わない方が良かったかなと考える時がときどきある。
しかし、やっぱり愛らしい。無邪気に笑ってくる笑顔に思わず引き込まれ、この手でヨシヨシしてしまう。するとまた笑うのでヨシヨシする。この繰り返しだった。
「はい!もしもし?はい...はい分かりました!はーい待ってまーす!」
家電話が部屋に鳴り響いた。旦那は素早い速度ででた。もうそろそろ孫娘たちが到着するらしい。
旦那は愛犬と遊ぶのをやめ、ヘンテコなお面を被って玄関で待った。旦那にとって孫たちは自分の命よりも大切なもの。まだ幼い子たちばかりなので可愛くて仕方がないとか。
「風邪引くわよー」
玄関は他の部屋より冷たく保たれている。長時間いると腹を壊すことがよくある。小夜もその1人だった。
「大丈夫だよー!」
旦那さんは愉快な返事をした。まったく...。小夜は心の中でそう呟いた。
小夜は1人でテキパキと動いた。一つのコンロでは孫たちが大好きなお肉を塩胡椒で焼き、もう一つのコンロでは野菜スープを作り、水回りで使用済みの菜箸やまな板を洗った。
『小夜ちゃんは本当働きもんだねぇ!腕が10本生えてるんかい?』
甦る一つの台詞。もう聞くことはない、聴けることはない。
小夜は、忙しくなればなるほど器用になる。5人でやることを1人でこなしてしまう。これは得意技や趣味というわけではない。必然的に身についてしまった技術に近いだろう。
小夜は昔、若い時から働いた。自分のために、家族のために一所懸命働いた。当時は生きるためだったが、今思い返せば、無意味な価値にすら感じる。
あの時間は、何だったんだろうか.....
「わっ!びっくりしたー!」
玄関の方から孫たちの声が聞こえた。黄色い声とともにリビングに姿を現した。
「小夜ちゃんやっほー!」
「はいはいこんにちわ。手洗った?」
孫たちは全員で4人。上から高校2年生、中学1年生、小学2年生、3歳となる。小夜たちは1人の子宝に恵まれたが、孫はその倍の倍までに恵まれた。
「お母さんありがとうね~。なんか手伝うことあります?」
娘の花澄単語が3歳の子供を片手で持ちながら近寄ってきた。会うのは実に昨日ぶり。まったく親近感もなく、小夜はいつも通り接した。
「洗い物してくれると本当に助かるのよ」
「おっけー!お父さん子供達見てて!」
「はいよ!ほら!鬼さんがくるぞー!」
子供たちは楽しそうにしていた。特に3番目の小学2年の子はお爺ちゃん子。お面姿の旦那を見てゲラゲラ笑っていた。その姿を見て花澄と目を合わせて小さく微笑んだ。
「いただきます!」
「どんどん食べてねー!」
日も沈みかけた18時。8人と机の下で1匹、で食卓を囲んだ。いつもより豪華かつ多めに作ってよかった。小夜は安堵した。なぜなら子供達が笑っているから。特に下の子2人は豪快に口を開けて豚肉を頬張った。上2人は流石に少し落ち着いている。
「味薄くない?」
「ん!」
まったく。口の中のものがなくなったら喋りなさいって言ってるのに。まぁ仕方ないか。
「小夜ちゃんお茶もらうね~」
2番目の子が立ち上がり冷蔵庫にお茶をとりに行った。お茶を机の上に出しておくべきだったとまた反省する。小夜の頭の中は常に後悔ばかりだった。
「ゆっくり食べなさい———!あら、どうしたの?お茶なかった?」
孫が私の前で立ち尽くしていた。どうしたのか尋ねると、彼女の手には”ある物”があった。
「なになにこれー?」
本当に純粋な質問。顔をポカーンとさせて。
小夜の体の芯は雑に震え上がった。暑いというほどの部屋なのに、寒気がした。愛犬の鳴き声も遠く聞こえる。
彼女はまだ中学生だ。学校も始まったばかりで近代の歴史の授業は受けていないだろう。
「なんで、これを?」
「そこに落ちてたの。戻しとく?」
しかし小夜の頭の中は一気にモノクロの世界へとなった。色がなく、無色。
「この写真はね、本当に大切なものなの」
「2人で何の話してんのー!」
1番上の高校生が興味津々に会話に割って入ってきた。もちろん無視はせずに、視線を向けた。
小夜の中で、何かの決意を固めた。
「食事の時に悪いんだけど、一つ話題話してもいいかい?」
2番目の子のこの一言がなければ、この話は一生封印し墓まで隠し通すつもりだった。それほど彼女はこの写真の当時のことを話をしたくない。
だが、今日1日という日を通して、小夜は普段とは違う日だと感じた。別に大したことも、ニュースも、異常事態も起きてない。
しかし想いというのは不意に訪れるもの。
まるで小夜は過去に吸い込まれるように話を始めた。
「この写真は、私が17歳の時だったかしら————」
「むぎ?よいしょ~!」
旦那は皿を並べ終わった後に愛犬の”むぎ”と戯れていた。おもちゃを投げたり、引っ張り合ったりした。
旦那は溺愛な愛妻家だが、愛犬にも同じように溺愛している。彼はすぐに褒めてお菓子をあげる。おもちゃを持って来れたらお菓子、お散歩に行ったらお菓子。そのせいで毎月のペットショップでの検診で毎回お決まりのようにお叱りを受ける。
少し体重が太ってきてますね!もう少し痩せましょうか!って。
もちろん2人は今までの人生で犬を飼ったことはない。旦那から言い出したことだが、小夜はやっぱり飼わない方が良かったかなと考える時がときどきある。
しかし、やっぱり愛らしい。無邪気に笑ってくる笑顔に思わず引き込まれ、この手でヨシヨシしてしまう。するとまた笑うのでヨシヨシする。この繰り返しだった。
「はい!もしもし?はい...はい分かりました!はーい待ってまーす!」
家電話が部屋に鳴り響いた。旦那は素早い速度ででた。もうそろそろ孫娘たちが到着するらしい。
旦那は愛犬と遊ぶのをやめ、ヘンテコなお面を被って玄関で待った。旦那にとって孫たちは自分の命よりも大切なもの。まだ幼い子たちばかりなので可愛くて仕方がないとか。
「風邪引くわよー」
玄関は他の部屋より冷たく保たれている。長時間いると腹を壊すことがよくある。小夜もその1人だった。
「大丈夫だよー!」
旦那さんは愉快な返事をした。まったく...。小夜は心の中でそう呟いた。
小夜は1人でテキパキと動いた。一つのコンロでは孫たちが大好きなお肉を塩胡椒で焼き、もう一つのコンロでは野菜スープを作り、水回りで使用済みの菜箸やまな板を洗った。
『小夜ちゃんは本当働きもんだねぇ!腕が10本生えてるんかい?』
甦る一つの台詞。もう聞くことはない、聴けることはない。
小夜は、忙しくなればなるほど器用になる。5人でやることを1人でこなしてしまう。これは得意技や趣味というわけではない。必然的に身についてしまった技術に近いだろう。
小夜は昔、若い時から働いた。自分のために、家族のために一所懸命働いた。当時は生きるためだったが、今思い返せば、無意味な価値にすら感じる。
あの時間は、何だったんだろうか.....
「わっ!びっくりしたー!」
玄関の方から孫たちの声が聞こえた。黄色い声とともにリビングに姿を現した。
「小夜ちゃんやっほー!」
「はいはいこんにちわ。手洗った?」
孫たちは全員で4人。上から高校2年生、中学1年生、小学2年生、3歳となる。小夜たちは1人の子宝に恵まれたが、孫はその倍の倍までに恵まれた。
「お母さんありがとうね~。なんか手伝うことあります?」
娘の花澄単語が3歳の子供を片手で持ちながら近寄ってきた。会うのは実に昨日ぶり。まったく親近感もなく、小夜はいつも通り接した。
「洗い物してくれると本当に助かるのよ」
「おっけー!お父さん子供達見てて!」
「はいよ!ほら!鬼さんがくるぞー!」
子供たちは楽しそうにしていた。特に3番目の小学2年の子はお爺ちゃん子。お面姿の旦那を見てゲラゲラ笑っていた。その姿を見て花澄と目を合わせて小さく微笑んだ。
「いただきます!」
「どんどん食べてねー!」
日も沈みかけた18時。8人と机の下で1匹、で食卓を囲んだ。いつもより豪華かつ多めに作ってよかった。小夜は安堵した。なぜなら子供達が笑っているから。特に下の子2人は豪快に口を開けて豚肉を頬張った。上2人は流石に少し落ち着いている。
「味薄くない?」
「ん!」
まったく。口の中のものがなくなったら喋りなさいって言ってるのに。まぁ仕方ないか。
「小夜ちゃんお茶もらうね~」
2番目の子が立ち上がり冷蔵庫にお茶をとりに行った。お茶を机の上に出しておくべきだったとまた反省する。小夜の頭の中は常に後悔ばかりだった。
「ゆっくり食べなさい———!あら、どうしたの?お茶なかった?」
孫が私の前で立ち尽くしていた。どうしたのか尋ねると、彼女の手には”ある物”があった。
「なになにこれー?」
本当に純粋な質問。顔をポカーンとさせて。
小夜の体の芯は雑に震え上がった。暑いというほどの部屋なのに、寒気がした。愛犬の鳴き声も遠く聞こえる。
彼女はまだ中学生だ。学校も始まったばかりで近代の歴史の授業は受けていないだろう。
「なんで、これを?」
「そこに落ちてたの。戻しとく?」
しかし小夜の頭の中は一気にモノクロの世界へとなった。色がなく、無色。
「この写真はね、本当に大切なものなの」
「2人で何の話してんのー!」
1番上の高校生が興味津々に会話に割って入ってきた。もちろん無視はせずに、視線を向けた。
小夜の中で、何かの決意を固めた。
「食事の時に悪いんだけど、一つ話題話してもいいかい?」
2番目の子のこの一言がなければ、この話は一生封印し墓まで隠し通すつもりだった。それほど彼女はこの写真の当時のことを話をしたくない。
だが、今日1日という日を通して、小夜は普段とは違う日だと感じた。別に大したことも、ニュースも、異常事態も起きてない。
しかし想いというのは不意に訪れるもの。
まるで小夜は過去に吸い込まれるように話を始めた。
「この写真は、私が17歳の時だったかしら————」

