パジャマ姿でベッドに寝そべり、一冊の日記帳を開く。
表紙を飾るのは、可憐な忘れな草。
小さな青い星をぎゅっと集めたような花。イノセントって感じかな。
窓を叩く雨音を聞きながら、文字を追う。
中間テストの結果、図書室の本の感想。そして、色鉛筆で丁寧にスケッチされた忘れな草。
――私を忘れないで。
左のページには、私の名前。その下に、あと四人の名前。
私の名前が、一番大きく書かれてる。
目を閉じると、センチメンタルな感傷が波のように押し寄せた。
『私を忘れないで……』
うん、でも。
この日々はすぐに思い出になっていく。
私たちはやがて大人になり、それぞれの大空へ羽ばたいていく。
ああ、心にぽっかりと空いた穴。
私だけは……君を、いつまでも……。
「……なーんてね。あーあ」
私は日記を放り投げた。
普通すぎるつまんないイジメだったけど。
うん、忘れない、あんたの泣き顔。
イラっとする真面目でおどおどした態度。
もう一度ページをめくる。
『教科書がなくなった。私の勘違い? 気にしない』
『体育館裏で教科書が見つかった……』
『体育の授業、誰もペアになってくれない』
『新品の靴が川に浮いてた、無理して取りに行けばよかったかな』
日記は最後のページになった。
『ママ大好き、ゴメン、心配してくれてありがとう』
私は日記を包装紙で包み、ガムテープをぐるぐる巻きにした。ポテチの空き袋と一緒にレジ袋へ押し込み、台所のゴミ箱の奥へ。明日は生ゴミの日。これで、イジメの証拠はこの世から消える。
ベッドに戻り、スマホを手に取った。
その瞬間、画面が狂ったようにチカチカしはじめた。
通知、通知、通知。
雨音さえ聞こえなくなるほどの、絶え間ないバイブ音。
震える指でインスタを開くと、知らないアカウントからのコメントが雪崩のように流れ込んできた。
私の顔写真。学校の名前、住所。
小学校の卒業文集。
クラスメイトのメッセージ。
『今バズってるよ、これ』
画面の中で、忘れな草が揺れている。
死んだあの子の声で、日記が朗読されていた。
――いじめ日記。
削除、削除、削除。指が震える。
スマホごと叩き割りたくなる。
……落ち着かなきゃ。
指が痛くなるほど削除しても、次々と複製され、拡散されていく。
青い小さな花が嗤っていた。
忘れな草。花言葉は――私を忘れないで。
表紙を飾るのは、可憐な忘れな草。
小さな青い星をぎゅっと集めたような花。イノセントって感じかな。
窓を叩く雨音を聞きながら、文字を追う。
中間テストの結果、図書室の本の感想。そして、色鉛筆で丁寧にスケッチされた忘れな草。
――私を忘れないで。
左のページには、私の名前。その下に、あと四人の名前。
私の名前が、一番大きく書かれてる。
目を閉じると、センチメンタルな感傷が波のように押し寄せた。
『私を忘れないで……』
うん、でも。
この日々はすぐに思い出になっていく。
私たちはやがて大人になり、それぞれの大空へ羽ばたいていく。
ああ、心にぽっかりと空いた穴。
私だけは……君を、いつまでも……。
「……なーんてね。あーあ」
私は日記を放り投げた。
普通すぎるつまんないイジメだったけど。
うん、忘れない、あんたの泣き顔。
イラっとする真面目でおどおどした態度。
もう一度ページをめくる。
『教科書がなくなった。私の勘違い? 気にしない』
『体育館裏で教科書が見つかった……』
『体育の授業、誰もペアになってくれない』
『新品の靴が川に浮いてた、無理して取りに行けばよかったかな』
日記は最後のページになった。
『ママ大好き、ゴメン、心配してくれてありがとう』
私は日記を包装紙で包み、ガムテープをぐるぐる巻きにした。ポテチの空き袋と一緒にレジ袋へ押し込み、台所のゴミ箱の奥へ。明日は生ゴミの日。これで、イジメの証拠はこの世から消える。
ベッドに戻り、スマホを手に取った。
その瞬間、画面が狂ったようにチカチカしはじめた。
通知、通知、通知。
雨音さえ聞こえなくなるほどの、絶え間ないバイブ音。
震える指でインスタを開くと、知らないアカウントからのコメントが雪崩のように流れ込んできた。
私の顔写真。学校の名前、住所。
小学校の卒業文集。
クラスメイトのメッセージ。
『今バズってるよ、これ』
画面の中で、忘れな草が揺れている。
死んだあの子の声で、日記が朗読されていた。
――いじめ日記。
削除、削除、削除。指が震える。
スマホごと叩き割りたくなる。
……落ち着かなきゃ。
指が痛くなるほど削除しても、次々と複製され、拡散されていく。
青い小さな花が嗤っていた。
忘れな草。花言葉は――私を忘れないで。

