クールな年下男子と、甘い恋を。

「いじめられていたことは黙ってろとは言ったが、きっとすぐにばらすと思っていた。哀れみや嘲笑の的になることも覚悟していたさ。それがまさか、夏休み明けのいまに至るまでずっと黙ってるなんて誰が想像する? 万引きの常習犯だの、町の不良グループを壊滅させただの、気に入らない奴を階段から突き落としただの――事実無根の噂を流されても、最悪といっていいほど、どうしようもなく自分の立場を悪くしてでも――それでも黙ってるなんて馬鹿としか言いようがないだろう」
「そうかもしれない。でも、俺はそれでも良かったんだ」
 漣里くんは泣き続けている小金井くんをひたと見つめた。

「『ありがとう』って、あのとき、先輩がそう言ったから」

 その言葉に、小金井くんが唇を閉ざした。

「あの一言は、俺にとって、どれだけ自分の立場を悪くしてでも先輩を庇う価値があると思わせた」
「…………」
「ただ、それだけのことだったんだ」
 長い、沈黙があった。

 小金井くんは押し黙り、漣里くんは無表情に佇み、私もただ黙っていた。

 校舎の中から聞こえる生徒たちの笑い声が、遠く感じる。
 廊下には私たち以外の人間はおらず、私たちは微動だにせず――この場の時間は止まっていた。

 それから、どれくらい経っただろう。

「……は」
 小金井くんは失笑で時を動かした。
 その目からはまた新たな涙が溢れようとしていた。