鴻巣翔流の心霊事件 -学校一のイケメンは霊能者!-

「学校近くの交差点にはくれぐれも気をつけるんだぞ。神埜が事故りそうになったばかりだ。道路ぎりぎりで信号待ちは危険だからな。みんな、いいな」
 担任で、学年主任である綴木(つづき)先生の注意でホームルームを締めくくり、下校となった。
 菜月は翔流の様子をうかがっていた。
 そして、翔流が鞄を手に教室から出て行こうとするところを、引き止める。

「翔流くん」
 立ち止まり、翔流が振り返る。
「昨日は助けてくれてありがとう。改めてお礼を言いたいと思ったの。本当に翔流くんが助けてくれなかったら、私、今頃……」
 翔流の手首の絆創膏に、菜月は視線を落とす。
「怪我、だいじょうぶ?」
「ああ、たいしたことじゃない。すぐ治る」
「ごめんなさい」
「神埜が謝ることじゃないだろう」
「うん」

 教室を出て行こうとするクラスの子たちが、興味津々な視線を向けてくるのがわかった。
「歩きながら喋らないか?」
「え?」
「話がある」
「う、うん……」
 相手が人気者なだけに、ここで立ち話をするのは目立つ。

 それにしても話ってなんだろう。

 二人は並びながら歩き、昇降口に向かった。
「一つ忠告だ。ああいうところで手を合わせるのはやめろ。同情するのもだめだ」
「え、なに?」
 何を言われたのか分からなかった。
「交差点だ。ガードレール脇に花束が置いてあっただろう。子どもが車にひかれたと知って、かわいそうだと思った」

 その通りだけど。

「知り合いでもないのに、誰かれかまわず同情して手を合わせるのは危険だ。その優しさにつけこまれることだってある。後悔するのは自分自身だ」
 あまりの物言いに、思わずカチンとくる。

 交通事故で亡くなったんだよ。
 かわいそうだと思って、なにがいけないの?
 鴻巣くんって、こんなこと言う人なんだ。

 といっても、これまで親しく接したことはないし、会話もろくにしたことがない。
 交わすといえば挨拶くらい。
 だから、彼のことはよく知らないのだが。
 助けてくれたことは感謝しているけれど、それとこれとは話が別。

 こんなきつい言い方をする人だったなんて。
 それに、さっきだって告白してきた子に気持ち悪いって、あんなひどいこと、普通言う?
 言わないよね。
 鬼なの?

 立ち止まった菜月に気づき、翔流も足を止めた。
 菜月は眉間にしわを寄せ、翔流を睨む。
「さっき、隣のクラスの子が告白してきたよね」
 それが何だ? と翔流は目を細める。
「断るにしても、あんな言い方はひどいと思う」
 翔流は肩をすくめた。

「神埜さんには関係ないだろ」
「な!」
「僕の話はそれだけだ。それと今後、僕に近寄るな」
 昇降口にたどり着くと、翔流は靴に履き替え、さっさと行ってしまう。
 菜月はぎゅっと手を握りしめた。
 怒りが込み上げてくる。

「僕に近寄るなって、なにあの態度。顔はいいけど、性格は最悪ね!」
 思い出すだけでも、腹が立つ。
「おや、神埜まだいたのか? はやく帰らないと暗くなるぞ」
 そこへ、綴木先生が通りかかった。

「あ、もう帰るところです」
「気をつけるんだぞ。通り魔事件の犯人もまだ捕まっていないんだから」
 そうだった。
「神埜のお父さんはいつも家に帰ってくるのが遅いんだよな」
「そうなんです。残業が多くて」
 それどころか家に帰れない日だってある。
「今日も帰りが遅いのか? きちんと戸締まりをするんだぞ」
 菜月はくすっと笑った。

 先生も、パパと同じことを言うのね。

「今日は残業はないって言っていたから、はやめに帰ってくると思います」
「それはよかった。ああ、そうそう。お父さんは刑事だったね。通り魔事件のことは何か聞いているか?」
 菜月はいいえ、と首を横に振る。

「そうか。一刻もはやく犯人が捕まると、生徒たちも安心するんだがな」
 先生の言葉に、菜月はそうですね、と答えて学校を出た。