「すごい! 翔流くん、ママの味を再現してる!」
できあがった肉じゃがの味見をした菜月は、手を叩き喜びの声をあげた。
「まさか、ママの霊を呼びだしてレシピを教わるなんて、思いもしなかった!」
以前、翔流が肉じゃが作りを手伝うと言ったのは、こういう意味だったのだ。
「お母さんも喜んでいたね」
「うん」
娘に料理を教える母の顔は、とても嬉しそうであった。
もちろん、こんなことは何度もできることではない。
菜月は目の縁に浮かんだ涙を指で拭った。
「これなら、きっと、パパも満足してくれる。ありがとう翔流くん」
「征樹さんなら、菜月が作った料理は、どんなものでも喜んで食べてくれると思うけどな」
「もちろん、そうだけど。でも、パパに喜んで欲しいから」
「菜月は、本当にお父さんが好きなんだね」
「もちろん!」
無邪気に父親を好きという菜月に、翔流はどこか複雑そうな表情を浮かべる。
「どうしたの、翔流くん」
「いや、何でもない」
「変なの。それよりも、通り魔事件の犯人が綴木先生だったとは驚いたね」
振り返ったすぐ後ろに、女装して赤いレインコートを着た先生の姿は、今でも思い出すだけで恐ろしい。
しばらく夢にみてはうなされた。
綴木が犯行に及んだのは、仕事による過大なストレスが原因だった。
後から聞いた話だが、綴木は女装が趣味だったらしく、その趣味に赤いレインコートを着た都市伝説の噂話を利用し、生徒たちを脅かし、ストレスを発散していた。
綴木の最初の犯行は、山城まどかに嫌がらせを受けた藤白桜花が、交差点に飛び出し車にはねられた直後。
綴木は塾帰りの女子中学生に襲いかかり、カッターナイフで怪我を負わせた。
学年主任の綴木は、学校内で問題となっているいじめに頭を悩ませ、精神的に病み、憂さ晴らしにやったのだ。
それで味をしめた。
二度目の犯行は、小山佳珠子が屋上から飛び降りそうになったことが原因であった。
またしても生徒が問題を起こしたことにより、他の教師や生徒の親たちから圧力がかかり、ストレスのはけ口として犯行に及んだ。
手口は前回と同じだ。
そして三度目は、菜月が山城まどかにトイレに呼び出され、いじめられたこと。
暎子に顔色が悪くないか? と言われた時には、すでにストレスが沸騰点に達していた。
菜月の父親が家にいないことを確認し、やはりこれまでと同じ手口で菜月を襲おうとした。
「優しい先生だと思ったのに」
しんみりとした声をもらす菜月を気づかい、翔流は話題をそらす。
「そういえば、菜月って、霊が視えるようになったんだね」
翔流に指摘され、菜月は深いため息をつく。
最初は、ぼんやりとした黒い影でしか視えていなかった。
やがて、佳珠子の生霊の声が聞こえ、最終的には桜花の姿がはっきりと視えるようになり、それどころか会話もした。
翔流に助けを求めるため、幽体離脱もやった。
私、霊感ゼロだったのに!
そう、桜花といえば、翔流の呼びかけにも応じず、彼女が魔の交差点から動かずにいたのは、側に座り込んでいた父親を心配していたからであった。
藤白は娘をいじめた相手を憎むようになり、その負の感情が悪霊を呼び寄せ、心を支配された。
そして、今回の事件をおこしたのだ。
「桜花さん、意識を取り戻してよかったよね」
「菜月は、藤白さんが亡くなったんだと思っていたんだよね」
「だって、てっきり……」
と、菜月はもごもごと口ごもる。
「勝手に死人扱いするなんてひどいなあ。誰も、藤白さんが亡くなったとは言ってないのに」
「翔流くんがまぎらわしことを言うから」
「僕が?」
「交差点で、藤白さんのことを、本来自分がいるべき場所へ送りたいって言たから、てっきり天国かと」
「だから、病院でずっと眠っている藤白さん自身の身体に返したいと思ったんだよ。長い間本体から魂が離れると、戻れなくなる可能性があるから。だけど、目覚めてくれて本当によかった」
意識不明の重体から目を覚ました桜花は、今は回復に向けてリハビリに励んでいると聞いた。
いじめにあっていた桜花が、再び学校に戻ってくるかは分からない。
けれど、今ははやく元気になって欲しいと願うばかりだ。
できあがった肉じゃがの味見をした菜月は、手を叩き喜びの声をあげた。
「まさか、ママの霊を呼びだしてレシピを教わるなんて、思いもしなかった!」
以前、翔流が肉じゃが作りを手伝うと言ったのは、こういう意味だったのだ。
「お母さんも喜んでいたね」
「うん」
娘に料理を教える母の顔は、とても嬉しそうであった。
もちろん、こんなことは何度もできることではない。
菜月は目の縁に浮かんだ涙を指で拭った。
「これなら、きっと、パパも満足してくれる。ありがとう翔流くん」
「征樹さんなら、菜月が作った料理は、どんなものでも喜んで食べてくれると思うけどな」
「もちろん、そうだけど。でも、パパに喜んで欲しいから」
「菜月は、本当にお父さんが好きなんだね」
「もちろん!」
無邪気に父親を好きという菜月に、翔流はどこか複雑そうな表情を浮かべる。
「どうしたの、翔流くん」
「いや、何でもない」
「変なの。それよりも、通り魔事件の犯人が綴木先生だったとは驚いたね」
振り返ったすぐ後ろに、女装して赤いレインコートを着た先生の姿は、今でも思い出すだけで恐ろしい。
しばらく夢にみてはうなされた。
綴木が犯行に及んだのは、仕事による過大なストレスが原因だった。
後から聞いた話だが、綴木は女装が趣味だったらしく、その趣味に赤いレインコートを着た都市伝説の噂話を利用し、生徒たちを脅かし、ストレスを発散していた。
綴木の最初の犯行は、山城まどかに嫌がらせを受けた藤白桜花が、交差点に飛び出し車にはねられた直後。
綴木は塾帰りの女子中学生に襲いかかり、カッターナイフで怪我を負わせた。
学年主任の綴木は、学校内で問題となっているいじめに頭を悩ませ、精神的に病み、憂さ晴らしにやったのだ。
それで味をしめた。
二度目の犯行は、小山佳珠子が屋上から飛び降りそうになったことが原因であった。
またしても生徒が問題を起こしたことにより、他の教師や生徒の親たちから圧力がかかり、ストレスのはけ口として犯行に及んだ。
手口は前回と同じだ。
そして三度目は、菜月が山城まどかにトイレに呼び出され、いじめられたこと。
暎子に顔色が悪くないか? と言われた時には、すでにストレスが沸騰点に達していた。
菜月の父親が家にいないことを確認し、やはりこれまでと同じ手口で菜月を襲おうとした。
「優しい先生だと思ったのに」
しんみりとした声をもらす菜月を気づかい、翔流は話題をそらす。
「そういえば、菜月って、霊が視えるようになったんだね」
翔流に指摘され、菜月は深いため息をつく。
最初は、ぼんやりとした黒い影でしか視えていなかった。
やがて、佳珠子の生霊の声が聞こえ、最終的には桜花の姿がはっきりと視えるようになり、それどころか会話もした。
翔流に助けを求めるため、幽体離脱もやった。
私、霊感ゼロだったのに!
そう、桜花といえば、翔流の呼びかけにも応じず、彼女が魔の交差点から動かずにいたのは、側に座り込んでいた父親を心配していたからであった。
藤白は娘をいじめた相手を憎むようになり、その負の感情が悪霊を呼び寄せ、心を支配された。
そして、今回の事件をおこしたのだ。
「桜花さん、意識を取り戻してよかったよね」
「菜月は、藤白さんが亡くなったんだと思っていたんだよね」
「だって、てっきり……」
と、菜月はもごもごと口ごもる。
「勝手に死人扱いするなんてひどいなあ。誰も、藤白さんが亡くなったとは言ってないのに」
「翔流くんがまぎらわしことを言うから」
「僕が?」
「交差点で、藤白さんのことを、本来自分がいるべき場所へ送りたいって言たから、てっきり天国かと」
「だから、病院でずっと眠っている藤白さん自身の身体に返したいと思ったんだよ。長い間本体から魂が離れると、戻れなくなる可能性があるから。だけど、目覚めてくれて本当によかった」
意識不明の重体から目を覚ました桜花は、今は回復に向けてリハビリに励んでいると聞いた。
いじめにあっていた桜花が、再び学校に戻ってくるかは分からない。
けれど、今ははやく元気になって欲しいと願うばかりだ。
