鴻巣翔流の心霊事件 -学校一のイケメンは霊能者!-

「おまえが娘をいじめた山城まどかだな!」
「え? ち、違います! 私は山城まどかじゃないです!」
 どうして私のことを山城まどかだと勘違いしているのだろう。
 何がなんだかわからず、菜月の頭は混乱した。

「嘘を言うな! さっき、スマホにかかってきた電話に出た時に名乗ったではないか! 山城まどかだと」
 菜月は息を飲む。
 そう、確かに言った。
 交差点で立ち止まり、まどかのスマホに電話がかかってきて。

『はい、山城まどか』

 のスマホです、と――。

 すぐ側に、いつも座り込んでいる不審者の姿もいた。
 電話の相手は、暎子の言った通り本人からだった。
 スマホは暎子に頼んで返した。
 だが、藤白は勘違いをしている。

「妻を亡くし、幼い桜花を、僕は大切に育ててきた。僕にとって桜花はすべてだった。宝ものだった。桜花があんな目にあってから、僕は何もかもやる気を失い、今ではこんな有様だ。僕は桜花をいじめた奴が誰なのか知りたいと思った。だが、学校に問い詰めても教えてくれない。それどころか、そんないじめはないと言い張った。だが、ようやく、娘をいじめた人物が山城まどかという名前だと知った。そのことを学校に言っても、まったく取り合ってくれない。だったら、自分で探すしかない。そう思い、僕は桜花が事故にあったあの交差点で、ずっと座り込みながら探し続けた。そして、ようやく見つけた」
 菜月は慌てて首を振った。

「待って、私の話を聞いてください。私は神埜菜月! 山城まどかじゃ」
「逃れようと思って嘘をついても、無駄だ!」
 菜月の顔が青ざめる。
 藤白の手には、いつの間にかナイフが握られていたからだ。

「娘をあんな目にあわせたおまえを許さない」
「本当に違うの!」
 いくら違うと否定しても、藤白は菜月の言葉を聞こうとはしない。
 このままでは殺される。

 どうすれば……。

 部屋の構造を見ると、アパートの一室。
 窓から差し込んでくる街灯の、光の加減からおそらくここは二階。
 大声で叫べば、きっと誰かが気づいて駆けつけてきてくれるかも。
 だが、叫んで相手を刺激すれば、かえって危険な気がした。

 ふと、菜月は翔流の言葉を思い出す。
 小山佳珠子が生霊になって現れた時のことだ。
 生霊はその人の強い思いによって、身体から魂が抜け、思いの対象となる相手の元へ飛ばせると言っていた。

 翔流くんの元へ私の生霊を飛ばし、助けを求めたら?
 できるかわからない。
 けれど、やってみるしかない。
 翔流くんなら、きっと、気づいてくれる。

 そう信じて菜月は目を閉じた。

『翔流くん、助けて!』

 どのくらい経ったのだろうか。
 とてつもなく長く感じたが、おそらく数十秒もかかっていないのかもしれない。
 菜月は息を荒くさせ、その場に横になる。
 身体に力が入らない。

 身体のダルさに、起き上がれなかった。
 生霊をうまく飛ばせたのか、わからない。

 ナイフを持った藤白が、菜月の元へと近づいてくる。
 絶望の中、藤白の背後に、もう一人何者かの存在を感じた。
 向こう側が透けてしまいそうなくらい、薄い影のような存在。
 目を凝らすと、女の子が立っていた。
 藤白を見つめるその少女の目は、悲しそうであった。

 あの子、桜花さん!

 その少女の顔を確認した菜月は目を見開いた。
「待って、後ろに桜花さんがいる!」
 しかし、桜花の名前を出したことで、かえって藤白を刺激したようだ。
「黙れ!」
 怒りに顔を真っ赤にしながら、藤白はナイフを持つ手を振り上げた。

 もうだめ……。
 パパ、翔流くん!

 その時であった。