「おはよう!」
学校に向かう途中の公園。
その公園の入り口前で立つ女子に、菜月は手を振った。
「暎子!」
「おはよー、菜月」
手を振りかえしたのは、親友の深水暎子だ。
「ごめーん。おくれちゃった」
暎子は腕時計を見る。
「まだ余裕だからだいじょうぶ。菜月もえらいよね。パパさんのために、朝食やお弁当を作ってあげるんだもん。あたしなら無理。ぎりぎりまで寝ていたい」
まだ眠いのか、暎子は口に手を当てあくびをする。
「もう慣れたよ」
二人は並んで歩き出す。
ママが他界してから三年がたつ。
最初は掃除も洗濯も料理もうまく出来ず、失敗ばかりだったけれど、今ではだいぶ慣れてきた。
それどころか、お料理をするのが大好きになった。
「パパも手伝ってくれるし」
「いいなあ~」
「なにが?」
「菜月のパパ。めっちゃイケメンなんだもん。顔はいいしスタイル抜群。あたしも、菜月のパパみたいなカッコいいお父さんが欲しい。うちのパパなんてさ……」
そんなこと言いながらも、お休みには家族旅行に行くんだって、よく楽しそうに話しているのだから、本当は仲はいいのだ。
家族旅行か。
うらやましいな。
「ねえ菜月、見て。また、あそこに怪しい人が座ってる」
学校近くの交差点が見えてくると、暎子が耳打ちをしてきた。
暎子の言う通り、交差点の片隅で、一人の男が座り込んでいた。
汚れてくたびれた上着に、すりきれたズボン。
ボサボサの髪と伸びきったひげ。
数ヶ月前から、交差点の側で座り込むようになった不審者だ。
特に何かをしてくるわけではないのだが、いつもそこに座って、通行人をじいっと見ているから気味が悪い。
「なんか怖いよね。もしかして、あの人が例の通り魔犯だったりして。ああして座って、女の子を物色しているのかも」
交差点にたどり着き、二人は不審者の存在を気にしながら、信号待ちで立ち止まる。
交差点を渡り、50メートルほど歩くと、菜月たちが通う中学校にたどり着く。
何気なく菜月は斜めに視線を落とした。
ガードレールの片隅に、花束が添えられている。
まだ新しい花であった。
その花束に、暎子も気づく。
「一週間前に事故があったみたい。子どもが車にはねられたんだって」
この交差点は事故が多く〝魔の交差点〟と呼ばれている。
そのせいか、ここで幽霊をみたという人が続出し、ちょっとした心霊スポットになっていた。
学校ではやっている噂によると、深夜の雨の日、全身血にまみれた女が交差点の片隅に立つという。
そして、その女性を見て驚いたドライバーが、あやまってハンドルを切り、衝突事故を起こす。
それが、赤いレインコートを着た幽霊の噂だ。
菜月は地面に置かれた花束から、目をそらせなかった。
こうして花が添えられているのも、何度か目にした。
つい三ヶ月前も、やはりここで、女の子が車にはねられた。
隣のクラスの、藤白桜花という女子だ。
その子とは特別親しくなかったが、事故にあったと聞いた時はショックを受けた。
信号が赤だったにもかかわらず、桜花は横断歩道を駆け抜け、左折してきた車にはねられたのだ。
さらに、不思議だったのが、雨が降っていたわけでもないのに、全身ずぶ濡れだったという。
いじめられて自殺をはかったという話も聞いたが、真相はわからない。
「こうも事故が続くと怖いよね」
信号が変わり、暎子は横断歩道を渡る。
菜月は添えられた花束を見下ろしながら目を閉じ、手を合わせた。
かわいそう。
どうか安らかに、と心の中でお祈りをしたその時、鋭い悲鳴に目を開ける。
「菜月!」
暎子の叫び声が耳を打つ。
右手から、一台の乗用車が真っ直ぐ、こちらへ突っ込んでくるのが目に飛び込んだ。
逃げなければと思いながらも、足が一歩も動かない。
まるで、強い力で何者かに足首をつかまれたように。
ひかれる!
菜月はきつく目を閉じた。
学校に向かう途中の公園。
その公園の入り口前で立つ女子に、菜月は手を振った。
「暎子!」
「おはよー、菜月」
手を振りかえしたのは、親友の深水暎子だ。
「ごめーん。おくれちゃった」
暎子は腕時計を見る。
「まだ余裕だからだいじょうぶ。菜月もえらいよね。パパさんのために、朝食やお弁当を作ってあげるんだもん。あたしなら無理。ぎりぎりまで寝ていたい」
まだ眠いのか、暎子は口に手を当てあくびをする。
「もう慣れたよ」
二人は並んで歩き出す。
ママが他界してから三年がたつ。
最初は掃除も洗濯も料理もうまく出来ず、失敗ばかりだったけれど、今ではだいぶ慣れてきた。
それどころか、お料理をするのが大好きになった。
「パパも手伝ってくれるし」
「いいなあ~」
「なにが?」
「菜月のパパ。めっちゃイケメンなんだもん。顔はいいしスタイル抜群。あたしも、菜月のパパみたいなカッコいいお父さんが欲しい。うちのパパなんてさ……」
そんなこと言いながらも、お休みには家族旅行に行くんだって、よく楽しそうに話しているのだから、本当は仲はいいのだ。
家族旅行か。
うらやましいな。
「ねえ菜月、見て。また、あそこに怪しい人が座ってる」
学校近くの交差点が見えてくると、暎子が耳打ちをしてきた。
暎子の言う通り、交差点の片隅で、一人の男が座り込んでいた。
汚れてくたびれた上着に、すりきれたズボン。
ボサボサの髪と伸びきったひげ。
数ヶ月前から、交差点の側で座り込むようになった不審者だ。
特に何かをしてくるわけではないのだが、いつもそこに座って、通行人をじいっと見ているから気味が悪い。
「なんか怖いよね。もしかして、あの人が例の通り魔犯だったりして。ああして座って、女の子を物色しているのかも」
交差点にたどり着き、二人は不審者の存在を気にしながら、信号待ちで立ち止まる。
交差点を渡り、50メートルほど歩くと、菜月たちが通う中学校にたどり着く。
何気なく菜月は斜めに視線を落とした。
ガードレールの片隅に、花束が添えられている。
まだ新しい花であった。
その花束に、暎子も気づく。
「一週間前に事故があったみたい。子どもが車にはねられたんだって」
この交差点は事故が多く〝魔の交差点〟と呼ばれている。
そのせいか、ここで幽霊をみたという人が続出し、ちょっとした心霊スポットになっていた。
学校ではやっている噂によると、深夜の雨の日、全身血にまみれた女が交差点の片隅に立つという。
そして、その女性を見て驚いたドライバーが、あやまってハンドルを切り、衝突事故を起こす。
それが、赤いレインコートを着た幽霊の噂だ。
菜月は地面に置かれた花束から、目をそらせなかった。
こうして花が添えられているのも、何度か目にした。
つい三ヶ月前も、やはりここで、女の子が車にはねられた。
隣のクラスの、藤白桜花という女子だ。
その子とは特別親しくなかったが、事故にあったと聞いた時はショックを受けた。
信号が赤だったにもかかわらず、桜花は横断歩道を駆け抜け、左折してきた車にはねられたのだ。
さらに、不思議だったのが、雨が降っていたわけでもないのに、全身ずぶ濡れだったという。
いじめられて自殺をはかったという話も聞いたが、真相はわからない。
「こうも事故が続くと怖いよね」
信号が変わり、暎子は横断歩道を渡る。
菜月は添えられた花束を見下ろしながら目を閉じ、手を合わせた。
かわいそう。
どうか安らかに、と心の中でお祈りをしたその時、鋭い悲鳴に目を開ける。
「菜月!」
暎子の叫び声が耳を打つ。
右手から、一台の乗用車が真っ直ぐ、こちらへ突っ込んでくるのが目に飛び込んだ。
逃げなければと思いながらも、足が一歩も動かない。
まるで、強い力で何者かに足首をつかまれたように。
ひかれる!
菜月はきつく目を閉じた。
