鴻巣翔流の心霊事件 -学校一のイケメンは霊能者!-

「こんなところに呼びだして、話って何?」
 先頭を歩いていたまどかがくるりと振り返った。
 緩く巻いた髪がふわりと踊って揺れる。

 間近で見ると、やっぱり可愛い顔立ちだなって思う。
 まるでお人形さんのような顔立ち。
 軟らかくて、ふわふわでいかにも女の子って雰囲気。

「神埜さんってさ、翔流くんのなに?」
「なにって?」

 くさい。

 菜月は鼻のあたりを手で押さえた。
 こんなに可愛いのに、彼女の心は醜くて真っ黒だ。
 おまけに、身体からどす黒いもやのようなものが取り巻いている。
 まるでねっとりとまどかの身体に絡みつくかのように。

「最近、いつも翔流くんと馴れ馴れしくしているじゃない。付き合ってるの?」
 まどかは腰に手をあて、菜月を見据える。

「付き合ってないけど」
「じゃあ、翔流くんとは親しくしないで。話もしないで。目も合わせちゃだめ」
「どうして?」
「翔流くんは、まどかが狙ってるの」

「告白したの? 翔流くんは付き合うって?」
「まだよ。でも、あたしを振る男の子なんているわけないでしょう」

 まどかは手でさっと髪を払いのける。
 ふわりと甘い香りが漂ってきた。
 告白もまだしていないのに、付き合う気満々のようだ。

「わかるでしょ? 自分の男が他の女の子と親しくしているのを見るのはイヤだってこと」
 菜月は心の中で呆れたように笑う。

 そんなおかしな話、あるだろうか。

「悪いけど、それは無理。翔流くんは友達だから」
 すると、取り巻きたちがずいっと身を乗り出してきた。

「あんた、まどかさんに逆らうつもり!」
「まどかさんが、鴻巣くんと親しくするなって言ったら、あんたはそれに従えばいいんだよ!」
 何とも理不尽な言い分だ。

「ふーん」
 と、声をもらし、菜月は肩をすくめる。
「翔流くんのことがそんなに好きなら、告白すればいいじゃない。嫌がらせで小山さんに、無理矢理告白させたんでしょ? 仲間はずれにするって脅して。平気で人の気持ちをもてあそぶくせに、自分の思いは伝えないんだ。卑怯だね」

 ああ、言っちゃった。

 怒りのあまり、うっかり口がすべった。
 案の定、まどかの表情がみるみる険しくなっていく。

「あんた、どうしてそのことを知ってるの?」
 菜月は口を閉ざす。
 まさか、自分に取り憑いていた佳珠子の生霊から話を聞きました、とは言えない。
 そこで菜月ははっとなる。

 あれ? そういえば私、いつの間にか霊が視えるだけでなく、声まで聞こえるようになったの?

「おまえ、何でそのことを知ってるのかっ、て聞いてんだよ」
 取り巻きの一人がどん、と菜月の肩を押す。
 その反動でよろめいて後ろに足を引く。
 まどかは腕を組み、ニタリと口角をつり上げた。

「ふーん、どうやらあんたも、桜花みたいに、いじめられたいようね」
「桜花?」
「藤白桜花だよ」
 ここで、なぜ、藤白桜花の名前が出てくるのかわからなかった。
 だが、すぐにその理由を知る。

「あの女、まどかさんが鴻巣くんのことを好きって知っていながら、抜けがけして告白しやがったんだ。だから、あたしたちで懲らしめてやった」
 取り巻きたちがくつくつと肩を震わせる。

「あの日もこうやってここに呼び出して、水をぶっかけてやったんだよね!」
 と、言うなり、取り巻きの一人がバケツに入った水を菜月めがけてかけてきた。
「きゃ!」
 菜月は悲鳴を上げた。

 頭から水をかぶったため、全身ずぶぬれだ。
 菜月は手の甲で、濡れた顔を拭う。
 ふと、取り巻きが言った言葉に引っかかるものを覚える。

「あの日もこうやって? あの日ってなに?」
 菜月の問いに、まどかははっとなって、水をかけた女子を睨みつける。
 睨まれた子は慌てて口に手を当てた。

「藤白さんが交通事故にあった日、あんたたちはこうやって藤白さんをトイレに呼び出し、私にやったことと同じことをしたの?」
「あいつがまどかさんを裏切るから、いけないんだ」
「あんたたちがいじめたせいで、藤白さんは自殺をした。このこと……」
 菜月の言葉が中断する。

 まどかが、どんと足でトイレの扉に蹴りをいれたからだ。
「このことを誰かに言ったら、許さないよ。あんたも桜花と同じ目にあわせるから。もっとひどいめに」
 これまでの可愛らしさを前面に押し出したキャラを脱ぎ捨て、まどかはドスの利いた声で言う。