鴻巣翔流の心霊事件 -学校一のイケメンは霊能者!-

「そんな怖い顔をして……なに?」
「体調が悪いのも、金縛りにあうのも、菜月に霊が取り憑いているからなんだ」
「霊!」
 菜月は素っ頓狂な声を出す。

 私、どこかで連れて帰ってきたの?

 この間も、交差点にいる地縛霊に取り憑かれ、向かってきたトラックの前に引きずり込まれそうになった。
「私に取り憑いている霊って、浮遊霊? どこかで拾っちゃった?」
 翔流は一瞬だけ間を置き、そして口を開く。

「小山佳珠子の霊だ」
「ちょっと待って! 小山佳珠子って……だって彼女は生きてるよ」
「そう、霊は霊でも生霊だ。他人に取り憑くのはなにも死霊だけとは限らない」
 翔流は菜月の右肩あたりを指さす。

「肩が重いよね?」
 右肩を押さえ、菜月はこくりとうなずく。
「もしかして、私の肩に!」
「ああ」
 菜月はぶるっと身体を震わせた。

「ここ数日、肩こりがひどいのも頭痛も?」
「小山が菜月の右肩にがっちりとしがみつき、凄まじい目で睨みつけている」
 ひい、っと悲鳴をあげそうになった。
「どうして小山さんが私に取り憑くの……」
 と、言いかけて菜月ははっとなる。
 佳珠子は翔流に思いを寄せていた。けれど、告白したが振られた。

 なのに、翔流くんと私が仲良くしているのを見て、面白くなかった。
 それで私を恨んだ。
 生霊を飛ばすほど、私のことが憎い。

 体調の悪さも、彼女が生霊となって肩につき、怨みをぶつけていたからだと思うとぞっとした。
「そこまで小山さんに恨まれていたなんて。もしかして小山さんも霊能力があるの? 霊能力で生霊を飛ばしているとか?」
「いや、生霊を飛ばすのは本人の意思とはまったく無関係なんだ。怨みの深さだね。霊能力とは関係ない」
 菜月は落ち込んだようにうなだれた。

「翔流くんとは何でもないって言っても、小山さん、納得してくれないんだもん」
 翔流は鞄から数珠を取り出した。
「とにかく、小山さんには菜月から離れてもらうよう説得してみる。今日はそのためにここに来た」
 ああ、やっぱり。
 話がありそうな顔をしていたのは、このためだったのだ。

「説得して離れてくれると思う?」
 恨みが深いというのなら、ちょっとやそっとのことで離れていくわけがない。
 そもそも、最初から取り憑いたりはしないのではないか。

「とにかくやってみる。最悪、除霊だ。むりやり引き剥がす」
 翔流は数珠を指にかけた。
「むりやり剥がして小山さんに影響はない?」
「人の心配している場合じゃないだろ」
「そうだけど、おとなしく本体に戻ってくれると思う?」
 翔流は息を吐いた。

「実は、生霊ほど厄介なものはないんだ。霊能者泣かせだね。死者よりもたちが悪い時がある。生きているから除霊も浄霊もできない。祓ってもまた取り憑いてくる。身体も魂もこの世に存在しているからパワーも強い。菜月、相手に引きずり込まれないよう、気をしっかりと持て」
「わ、わかった」