鴻巣翔流の心霊事件 -学校一のイケメンは霊能者!-

 翔流に呼び出された翌日から、菜月はあからさまな嫌がらせを受けるようになった。
「おはよう!」
 いつものように、親友の暎子と教室に入り挨拶をする。
 けれど、クラスの女子たちの目が、まるで菜月の様子を探るような視線であった。
 中には、わざと目をそらす者も。

 机に向かい、鞄を置こうとして、菜月はその場に固まった。
 なぜなら、机の上にはマジックで悪意ある落書きが書かれていたからだ。
 落書きに気づいた暎子は、ざっとクラス中を見渡し声を上げた。

「これを書いた人、誰!」
 暎子の剣幕に、みんな視線をそらす。

 さらに、机の中を見て愕然とする。
 たくさんのゴミが入れられていた。

「こんな悪質なことをする人は誰って聞いてるの! 出てきなさい!」
 暎子は乱暴に鞄を机に置くと、腰に手をあてた。
 この場にいる、クラスメイトひとりひとりの顔を確かめる。

「いいわ。名乗り出ないなら、あたしが犯人を突き止める。あんたたち手をだして。これだけの落書きだもの、手にマジックの汚れがついているはずよ」
 辺りがざわついた。

「暎子、いいよ。私、気にしてないから」
 イタズラをされた本人以上に怒りまくる暎子を、菜月はなだめる。
 騒ぎを大きくして、暎子にとばっちりがいくのは望ましくない。
 そこへ、翔流が教室に入ってきた。

 菜月の机に視線を落とし、そしてクラスの反応で状況を察した翔流は、掃除入れからぞうきんを取り出した。
 みんなが翔流に注目する中、彼は机の落書きを消し始める。

「おまえら、くだらないことするな」
 怒りを滲ませたような声が、翔流の口からもれる。
 翔流の言葉に、女子たちの顔に動揺が走った。

 しかし、それ以降も、菜月に対する嫌がらせは続いた。
 机の落書きは消しても消しても、毎日のように続く。
「何度消しても、書かれるんだもんなあ」

 いっそうのこと、消さずにそのままにしておこうかと思い始めてきた。
 クラスの子たちは、これまで通り普通に接してくれるが、その中の誰かが、あんな嫌がらせをしている、
 そうやって疑ってしまう自分もイヤだ。
 菜月は翔流を睨みつける。

 ていうか、なんで翔流くんと一緒に帰らなければならないのよ!

「こうなったのも、翔流くんのせいだからね」
「僕?」
「学校一の人気者が、私みたいなのに話しかけるから恨まれたのよ」
「それで僕のせい?」
 翔流は心外だというように肩をすくめる。

 菜月はため息をつく。
 翔流は自分が女の子たちから、好かれて人気があるのか、わかっていないのだ。

 天然なの?
 本当はこうして一緒に歩いているだけで、恨まれそうで怖いのに。

 ねえ、えり好みしないで、誰かと付き合っちゃいなよ。
 そうしたら、私の嫌がらせも、おさまると思うんだよね。

「なあ、誰が机に落書きをしているのか、確かめないか」
「いいよ。放っておくことにした」
 犯人を突き止めるなんて、そんなことはしたくない。

 そもそも、突き止めてどうしようというのか。
 相手を刺激する行動をとるよりも、相手が飽きるのを待つつもりだ。
 とにかく、相手にしなければいいのだ。
 それが一番の解決方法だと思うようになってきた。

 落書きも、わざわざ消すから新たに書かれる。
 明日からはそのままにしておこう。
「だけどこれ以上、相手の好き勝手をさせるのも腹が立つだろう?」
「うーん」
 菜月は首を傾げた。

 気にしないと決めた途端、どうでもよくなった気がする。
 本当に親しい友達がいればそれでいい。

「投げやりだな」
「放っておけばそのうち嫌がらせもおさまるよ。ううん、翔流くんが私にかかわらなければ、すべて解決」
「ふうん、それでいいのか?」
 菜月は言葉をつまらせた。

 目の前に翔流の真剣な顔がある。
 胸がトクンと鳴った。

「本当にそれでいいのか?」
「それは、その……せっかく翔流くんと友達になれたし、翔流くんの意外な一面も知れて……」
 翔流はにこりと笑った。

 うわ! イケメンの笑顔。

「そう、僕が霊能者だってことを知っているのは菜月だけ」
 私だけ。
 その言葉に再び菜月の胸がトクンとする。

 いやいや、と菜月は心の中で首を振った。
「だ、だって……確かめるっていっても、どうやって確かめるのよ」
「朝一番に教室に行って張り込む」
「張り込む? それはまた地味で地道なやり方だね」