「ちがっ、これは」
大輝はなにかを言いかけたけど、聞きたくなかった。
「……もういい」
その言葉だけを残して、私は立ち上がった。
上着も羽織らず財布も鍵も持たず、スマホだけを掴んで玄関に向かう。
「ちょっ、おい、どこ行くんだよ!」
背後からの声に振り返らず、私はドアを開けた。
夜風が冷たかった。
でも、部屋の中より、ずっと呼吸がしやすかった。
大学時代からの大輝とは長く、付き合って四年になる。
その間に三回浮気をされた。
その回数は私が把握している数ってだけで、実際はもっと多いかもしれないけど。
発覚するたびに『魔が差しただけでただの遊びだ』と謝られ、『本当に好きなのは凛だけだ』と抱きしめられた。
大輝の浮気癖には正直うんざりだし腹が立つけど、別れれば同棲中のあの部屋から引っ越さないといけない。
忙しい仕事の合間に部屋を探して、家具や家電を揃えて、引っ越しの準備をして……。
そう考えるとすべてが面倒になり、結局大輝との関係をずるずると続けてしまう。
浮気性でときめきもしないけど、恋人がいないよりはまし。
そんな打算と妥協で続いていた関係。
だけど、うろたえる彼を見て、もう無理だと思った。
ねぇ、大輝。
付き合い始めた頃のときめきは、どこに行ってしまったんだろう。
そう思いながら夜の空を見上げた。
行くあてなんて、会社以外思いつかなかった。


