からかわれてるとわかっているのに、胸の奥がきゅうっと締めつけられる。
距離を取ろうと思うのに、体がうまく動かなかった。
香水の匂いが、すぐそばにある。
その香りのせいで、理性が少しずつ溶かされていく気がした。
そのとき、カウンターに置いてあったスマホの画面に明かりが灯る。
毎日二十三時半に表示されるように設定しているリマインダー。
それを見た瞬間、すっと酔いがさめる。
もう終電の時間が近い。
反射的にそう思ってしまった。
私の視線の動きに気付いた神谷先輩が小さく笑う。
「そろそろ終電か?」
「あ、はい。でも」
今日は家には帰るつもりはなくて……。
そう言おうとしたけれど、神谷先輩は「駅まで送る」とタバコを灰皿に押し付けた。
……あぁ、引き止めてくれないんだ。
浮気するような男のところになんて帰るなよ。
神谷先輩がそう言って、私の腕を掴んでくれるんじゃないか。
心のどこかでそんな展開を期待していた自分に気付く。


