毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

翠蘭は格子越しに包みを差し出した。
「これ、お妃様の好きだった茶菓子です。最後に……」
その声が詰まる。
鈴音は包みを受け取った。そして翠蘭の目を真っ直ぐ見た。
「翠蘭。明日、私が最後に願うこと、聞いてくれる?」
翠蘭は驚いたように目を見開いた。
「何でもします」
涙が溢れ出した。
「何でも、お妃様のためなら」
鈴音は深く息を吸った。
「茶器と茶葉を、処刑場に持ってきて」
「え……」
「私の部屋から押収された茶器。それと、倉庫に残っている茶葉。全部」
翠蘭は戸惑った表情を浮かべた。
「でも、それは……」
「お願い」
鈴音は懇願した。
「これが最後の望み。茶を淹れさせて。もう一度だけ」
翠蘭は唇を噛んだ。長い沈黙の後、小さく頷いた。
「分かりました。必ず」
「ありがとう」
鈴音は微笑んだ。
翠蘭は泣きながら去っていった。
夜が明けようとしていた。
東の空が、わずかに白み始めている。
鈴音は独房の中央に座った。正座をする。背筋を伸ばす。
呼吸を整える。
吸って、吐いて。
心を落ち着ける。
前世で学んだ、茶道の心得。
一期一会。
この一杯を、最後の一杯として淹れる。
全ての想いを込めて。