毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

月が中天に昇る頃、足音が近づいてきた。
鈴音は目を開けた。独房の闇に目が慣れている。鉄格子の向こうに、小さな影が見えた。
「お妃様」
囁くような声。翠蘭だった。
周囲を警戒しながら、翠蘭は格子に近づいた。松明の光が消えた通路。他の兵士はいないようだった。
「翠蘭」
鈴音は格子に歩み寄った。
翠蘭の顔は月明かりに照らされていた。その目は赤く腫れている。泣いていたのだ。
「お妃様……」
翠蘭の声が震えた。
「明日、処刑です」
その言葉は、冷たい刃のように胸に突き刺さった。
でも鈴音は、静かに頷いた。
「そう」
翠蘭が驚いたように目を見開く。
「お妃様、なぜそんなに落ち着いて……」
「覚悟はできてるから」
鈴音は微笑んだ。本当は怖かった。でも翠蘭を不安にさせたくなかった。
翠蘭は格子に額をつけた。
「お妃様は、何も悪くないのに」
その声には怒りが滲んでいた。
「なぜこんなことに……」
「翠蘭」
鈴音は優しく言った。
「教えて。なぜ私が狙われたの?」
翠蘭は顔を上げた。唇を噛む。しばらく躊躇していたが、やがて口を開いた。
「後宮には、二つの派閥があります」
小さな声だった。
「皇太后様の派閥と、皇帝様の派閥です」