毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

満月だった。
空に浮かぶ月は、まん丸で明るく、茶室全体を銀色に照らしていた。
鈴音は縁側に座り、月を眺めていた。
こんな夜は、前世でもよく一人で月を見ていた。
茶を飲みながら、静かに時間を過ごす。
足音が聞こえた。
鈴音は振り返った。
皇帝だった。
一人で。金色の龍袍ではなく、簡素な黒い衣装。
護衛も連れていない。
「陛下」
鈴音は立ち上がろうとした。
「座ったままでいい」
皇帝が手で制した。
茶室に入ってくる。
縁側に座った。鈴音の隣に。
沈黙。
皇帝は月を見つめていた。
長い沈黙の後、口を開いた。
「話したいことがある」
その声は、いつもと違っていた。
威厳ではなく、弱さが滲んでいた。
珍しく弱気な口調。
鈴音は黙って頷いた。
立ち上がり、茶を淹れ始めた。
抹茶を点てる。静かに、丁寧に。
茶碗を二つ用意し、一つを皇帝に差し出した。
もう一つは自分の分。
並んで座り、月明かりの中で茶を飲む。
蓮の花が池に浮かんでいる。月光を反射して、幻想的に輝いていた。
虫の音が聞こえる。
風が優しく吹く。
穏やかな夜だった。
皇帝が茶碗を置いた。
「朕の父のことを、話そう」
鈴音は皇帝を見た。
皇帝は月を見つめたまま、語り始めた。
「父は、優れた皇帝だった」
その声は静かだった。
「民を愛し、国を治めた。誰もが慕っていた」
でも、と皇帝は続けた。
「父も龍の血を引いていた。龍化の呪いを背負っていた」
鈴音は息を飲んだ。