毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

呼吸は穏やか。手の動きに一切の迷いがない。
群衆の笑い声が消えた。
静寂。
全員が、鈴音の動きを注視していた。
皇帝も、高座から身を乗り出している。その視線は茶器に集中していた。
湯が沸く音が変わった。
鈴音は目を開けた。
「今だ」
呟いて、鉄瓶を火から下ろした。
茶葉を手に取る。
龍井茶。鮮やかな緑色の茶葉が、手のひらに載っている。
鈴音は茶葉を鼻に近づけた。
深く、ゆっくりと息を吸い込む。
清涼な香り。若葉の香り。春の息吹。
何度も嗅ぐ。隅々まで確認する。
群衆は息を詰めて見守っていた。
「これは……」
鈴音は顔を上げた。
「純粋な龍井茶です」
はっきりとした声で言った。
「毒など、一切混じっていません」
群衆がざわめく。
「では、どうして皇帝様が倒れたのだ」
誰かが叫んだ。
鈴音は答えなかった。ただ微笑んで、茶葉を茶碗に入れた。
太陽の光が茶葉を照らす。
緑の茶葉が、透き通るように輝いた。
美しかった。生命の色。
鈴音は鉄瓶を持ち上げた。
茶碗に湯を注ぐ。
細く、静かな流れ。
湯が茶碗に満ちていく。茶葉が踊り、開いていく。
そして、湯気が立ち上った。