毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

立ち上る湯気の中に、穏やかな龍の幻影が見える。
鈴音は茶碗を持ち、皇帝の前に進んだ。
跪く。
「どうぞ」
両手で茶碗を差し出す。
皇帝が手を伸ばした。
茶碗に触れようとした、その瞬間。
扉が激しく開いた。
黒装束の刺客が、五人飛び込んできた。
禁軍が反応するより早く、刺客の一人が剣を振るった。
皇帝の手を狙って。
金属音。
茶碗が手から弾き飛ばされた。
空中で回転する。
時間が止まったように感じられた。
鈴音の目に、その光景がスローモーションで映る。
茶碗が宙を舞う。
中の茶が、空中に広がる。
銀色の液体が、光を反射して輝く。
そして。
茶碗が床に落ちた。
パリン。
割れる音が、大殿に響き渡った。
龍鎮の茶が、床に広がる。
銀色の液体が、石の床に染み込んでいく。
消えていく。
鈴音の希望と共に。
「いや......」
鈴音の口から、小さな声が漏れた。
刺客たちは素早く逃げていった。
禁軍が追いかける。
剣戟の音。
でも鈴音には、何も聞こえなかった。
ただ、床に広がる銀色の液体を見つめていた。
割れた茶碗。
こぼれた茶。
全てが、終わった。
皇帝は立ち上がっていた。