毒姫の汚名を晴らした茶妃は、龍帝に溺愛されて後宮を変える

夜が再び訪れた。
丸一日、鈴音は茶を淹れ続けていた。
茶室は茶の香りで満たされていた。
何十種類もの香りが混ざり合う。
でも、求める香りではない。
鈴音は茶葉を見つめた。
「何が足りないの」
呟いた。
配合は完璧なはず。
温度も完璧。
技術も完璧。
でも、何かが足りない。
その時、前世の記憶が蘇った。
日本茶カフェで、師匠に言われた言葉。
「茶は心」
師匠の優しい声。
「技術も大切。でもそれ以上に、心を込めることが大切」
「茶を淹れる時、誰のために淹れているのか。その人を想いなさい」
「愛を込めなさい」
鈴音は目を閉じた。
「愛を込めることを忘れていた」
技術ばかりに囚われていた。
完璧な配合、完璧な温度。
でも、心が込められていなかった。
鈴音は目を開けた。
皇帝の顔を思い浮かべる。
あの人の笑顔。
あの人の悲しみ。
龍に苦しむ姿。
でも、自分の前では人でいてくれる姿。
愛おしい。
この人を救いたい。
自由にしてあげたい。
その想いを、茶に込める。
鈴音は茶葉を手に取った。
一枚一枚、丁寧に。
全ての想いを込めて。
愛する人のために。
調合する。
湯を沸かす。
注ぐ。