この恋、予定外。

こんなに頬を強調しているというのに、高橋さんはまったく気にする様子がない。
“夕方崩れる”というワードだけを目の前に置いている感じだった。

ぼそっと

「じゃあ皮脂が原因か」

と分析している。

「違います」

すぐに首を振ったら、怪訝そうな、いや不機嫌そうな顔をされた。

「なに?乾燥?」

「それもありますけど、一番は表情です」

会議室の何人かが顔を上げる。
私は少し身を乗り出した。
弾みで会議前に結び直した髪の毛が上の方で揺れる。


「営業って、ずっと喋ってるんですよ。笑うし、説明するし、歩くし。顔を動かします」

言い切ったあと、一度息を吸う。

「だから密着力が足りないんです」


高橋さんはそれには答えず、スライドを切り替えた。
耐久試験データのグラフが並ぶ。

「試作07は密着優先の処方にしてる。皮脂耐久は少し落としてる」

冷静とは違う、冷たい響きを持った声。
私は思わず眉を寄せた。

「え?」

高橋さんは資料の一部を指した。

「夕方崩れる原因は皮脂だけじゃない。摩擦、乾燥、表情筋、つまり─────」

グラフの一列をなぞる。

「全部だ」


思わず黙り込んでしまった。