この恋、予定外。

甘えたくて腕に頬をこすっていたら、不意に頭を撫でられた。

─────ああ、これだけで私もう、満たされてる。


「あっ、そうだ!」

自分でもびっくりするくらい、すぐに次の言葉が出た。

「私と付き合うなら、必須項目があります」

「は?」

「毎日、朝ラン行きませんか?」

間髪入れずに言い切ると、隣でぴたりと足が止まった。

「……げっ」

心底嫌そうな顔。めちゃくちゃ顔をしかめて、なんなら目も逸らされている。

「無理。やだ」

即答だった。

「えー!なんでですか!」

「毎日朝ランとか、正気か?」

「健康的ですよ!楽しいですよ!」

「楽しくねえよ。疲れるだけだ」

ばっさり切られる。
でも、なぜかそれが嬉しくて仕方ない。
さっきまであんな空気だったのに、もういつもの調子に戻っている。


「じゃあ週三!」

「減っただけでやるとは言ってない」

「じゃあ週一!」

「交渉の仕方が雑なんだよ」

思わず笑ってしまう。
こんな会話、前にもしていた気がする。でも、今は少しだけ違う。

距離も、温度も、ちゃんと変わっている。
隣を見上げると、高橋さんが小さく息をついた。

「……まあ」

少しだけ間があく。

「たまになら、付き合ってやるよ」

その言い方が、やっぱり優しくて。私だけに見せてくれている顔だと分かるから、ほころぶ。

「ほんとですか!?」

思わず腕に力が入った。「いててっ」と悲鳴も聞こえたけど、知らないふりをする。

「…その代わり、徹夜明けとかは起こすなよ」

「起こします」

「やめろ」

「絶対起こします」

「だからやめろって」

くだらないやり取りが続く。
それが、どうしようもなく嬉しい。


歩幅を合わせて、同じ方向に歩いていく。
それだけで、ちゃんと分かる。

私は、そっとその腕に寄りかかった。




⟡.꙳おしまい⟡.꙳