この恋、予定外。

その一言が、思っていたよりも重く響く。
確定。
その言葉だけで、試作品だったものが一気に遠くへ行く気がした。


朝倉課長も腕を組んだまま、静かにうなずいた。

「開発側は量産移行の最終確認に入ります。処方はこの内容で固定。細かい調整が入るとしても、品質面の最終チェックだけです」


それを聞いた瞬間、ああ、本当に終わるんだ、と思った。
試作の番号で呼んで、触って、比べて。
良いとか、まだ足りないとか、そういう言葉を積み重ねながら一緒にここまで持ってきた時間が、もう“調整の時間”ではなくなる。

ここからは、売るための時間だ。


「森川」

名前を呼ばれて、顔を上げる。
桐山課長がまっすぐこちらを見ていた。

「よくやった」

シンプルな言葉だったけれど、それだけで十分だった。

「……ありがとうございます」

声に出すと、自分が思っていたよりもちゃんと嬉しかった。


課長はそこで少しだけ口元を緩めて、続ける。

「ここから先は俺たち営業の仕事だ。いいもん作ってもらったんだから、あとは俺たちが売ろう。森川がしっかり軸になって、中心になって、ちゃんと売るんだぞ」


その言葉に、会議室の空気がまた少しだけ動く。


営業の仕事。
売る。
届ける。
広げる。
全部その通りだ。何も間違っていない。

むしろ、やっと自分の出番が本格的に来たのだと思えば、前を向くべき場面だった。

「─────はい」
と、絞り出すような返事をした。
たぶん、声は揺れてなかった、はずだ。


「開発はここまでだな」

一方で、朝倉課長はほっとした顔で高橋さんにそんな声をかけていた。

「ここから先は営業にバトンを渡す。高橋、ひとまずお疲れ」