街は相変わらず暗いままだ。
時刻はだいたい午前三時。
出社前に睡眠時間は確保できるだろうか、と一瞬だけ胡乱な事を考えてしまう。
そもそも明日は仕事になるのかもわからないと言うのに。
信号も、店の明かりも、全部消えたまま。
大規模停電で光害がなくなったせいか、星が見える。
東京で、こんなに星が見えることに感動したのは柚子だけではなかったようだ。
「うお、星、すごい見えますね」
真下が上を向いて言った。
九条が顎を上にあげる。
横顔のシルエットに、瞬間どきりと弾む胸に、思わず柚子は足を止める。
エレベーターは当然ながら稼働していない。
居住しているフロアが五階で良かったと、つくづく思う。
手摺りの表面がざらついていた。
懐中電灯で照らすと、壁面に塗りこめられていたであろう塗料が剥がれ落ち、亀裂が見える。
「これ、割れたんですかね、地震で」
真下が壁の傷を心配そうに見やり、九条も柚子もわからないと首を振る。
五階にある一室のドアは大きくあけ放たれている。
入り口付近で途方に暮れたような顔つきで座っていたのは、恐らく同じくらいの年頃の男女。
軽く会釈してそこを通り過ぎ、九条は501号室へ柚子と真下は502号室へと別れる。
懐中電灯の光に浮かび上がった室内は、先程と当たり前だが変わっていない。
少し変わっている点は、玄関横に立てかけていた傘が倒れていたくらいだ。
床に落ちたテレビ、粉々のグラス、水浸しの洗面所。
「野口さん、部屋……」
室内を見渡した真下が絶句している。
電気は相変わらず復旧しておらず、どうやら水もガスもなにもかも止まっている。
「はい……もー片付ける気力なくって。あ、足元気をつけてください。破片があるので」
毛布をひっぱりだして、ソファを勧めた。
「今日、本当に助かりました」
「ま、同期のよしみです」
努めて軽く言うと真下も笑って「隣の方、いい人ですね」と脈絡無く呟く。
「そうですね」
懐中電灯を空になったペットボトルに光が入るよう設置する。
室内に落とされる影の形は、見慣れないもので、現実からかけ離れている。
酷く疲れているのに、眠気は一向に訪れない。
余震が、あまりにもひっきりなしに続くので、結局柚子と真下はソファに座り込んで、ニュースサイトの情報を外が明るくなるまで追い続けていた。
こんな夜に、一人じゃ無くて良かったと思いながらも、隣の部屋に一人で居る九条は、今何をしているんだろうと考えていた。
時刻はだいたい午前三時。
出社前に睡眠時間は確保できるだろうか、と一瞬だけ胡乱な事を考えてしまう。
そもそも明日は仕事になるのかもわからないと言うのに。
信号も、店の明かりも、全部消えたまま。
大規模停電で光害がなくなったせいか、星が見える。
東京で、こんなに星が見えることに感動したのは柚子だけではなかったようだ。
「うお、星、すごい見えますね」
真下が上を向いて言った。
九条が顎を上にあげる。
横顔のシルエットに、瞬間どきりと弾む胸に、思わず柚子は足を止める。
エレベーターは当然ながら稼働していない。
居住しているフロアが五階で良かったと、つくづく思う。
手摺りの表面がざらついていた。
懐中電灯で照らすと、壁面に塗りこめられていたであろう塗料が剥がれ落ち、亀裂が見える。
「これ、割れたんですかね、地震で」
真下が壁の傷を心配そうに見やり、九条も柚子もわからないと首を振る。
五階にある一室のドアは大きくあけ放たれている。
入り口付近で途方に暮れたような顔つきで座っていたのは、恐らく同じくらいの年頃の男女。
軽く会釈してそこを通り過ぎ、九条は501号室へ柚子と真下は502号室へと別れる。
懐中電灯の光に浮かび上がった室内は、先程と当たり前だが変わっていない。
少し変わっている点は、玄関横に立てかけていた傘が倒れていたくらいだ。
床に落ちたテレビ、粉々のグラス、水浸しの洗面所。
「野口さん、部屋……」
室内を見渡した真下が絶句している。
電気は相変わらず復旧しておらず、どうやら水もガスもなにもかも止まっている。
「はい……もー片付ける気力なくって。あ、足元気をつけてください。破片があるので」
毛布をひっぱりだして、ソファを勧めた。
「今日、本当に助かりました」
「ま、同期のよしみです」
努めて軽く言うと真下も笑って「隣の方、いい人ですね」と脈絡無く呟く。
「そうですね」
懐中電灯を空になったペットボトルに光が入るよう設置する。
室内に落とされる影の形は、見慣れないもので、現実からかけ離れている。
酷く疲れているのに、眠気は一向に訪れない。
余震が、あまりにもひっきりなしに続くので、結局柚子と真下はソファに座り込んで、ニュースサイトの情報を外が明るくなるまで追い続けていた。
こんな夜に、一人じゃ無くて良かったと思いながらも、隣の部屋に一人で居る九条は、今何をしているんだろうと考えていた。

