オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

案内された居間に座ると、翼が麦茶を持ってやってくる。

「お菓子とかいる?でもこのあと屋台だもんな」

当たり前のように夏祭りの話をする翼に、胸がざわついた。
この後何が起こるんだろう、と不安になる。

「うん。お腹、空かせておこ」

声の震えを隠すので精一杯だった。

言葉が途切れると、部屋には静かな空気が広がる。

目の前に座った翼は、落ち着かない様子で指先を動かしていた。

「……翼、何かあった?」

そう聞くのには、とても勇気が必要だった。

この先にあるのは——防波堤の、あの赤い景色。
そこへ、自分から足を踏み出すような怖さがある。

「いや、何も……」

翼は笑って、そう言いかけた。
けれど、視線が合った瞬間、指先がぴたりと止まる。

「……なんかさ」

翼の目が、ふと横へ向いた。
視線を追うと、居間とつながった客間に目がいった。

そこに置かれた仏壇では、写真の中のお母さんが、静かにこちらを見ている。

「母さん……俺を産むときに死んだんだって」

翼は、視線を床に落とした。

「俺さ、さっき初めて聞いたんだよ」

胸が、どくっと鳴る。

——夏祭りの日。
私の知らないところで、翼に起きていたこと。

その理由が、今、明らかになろうとしている。

私はぎゅっと覚悟を決めて、翼をまっすぐ見つめた。