オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

ページをめくると、この十日間のイラストは、まだはっきり残っていた。

海の色も、夜の空も、救急車の赤い光も、昨日見たみたいに鮮明だった。

だけど——もっと前のページをめくると、様子が変わる。

美咲と笑っている絵。
健太が大きく手を振っている絵。
そして、翼と並んで歩いている帰り道。

そのどれもが、ところどころ滲んでいた。

まるで水をこぼしたみたいに、大事な部分だけが、ぽろぽろと消えている。

みんなには会っていないから、確かめることもできないけれど。

絵日記がこんなふうに変わっているのなら、もしかしたら。
消えているのは、私の思い出だけじゃないのかもしれない。

その日に起こった出来事そのものが、少しずつ、なかったことになっているのかもしれない。

そう考えたら、胸が、どうしようもなく苦しくなった。

それでも——真っ黒に塗りつぶされたあのページが、どうしても頭から離れなかった。

胸の奥から、熱いものが込み上げてくる。

私は、昨日、確かに強く思った。

翼を助けたいって。
翼の苦しみから、救いたいって。

自分の後悔を消すだけじゃ、足りないと、心から思ったのだ。

お姉さんの言葉が、頭の中によみがえる。

——『たくさん変えようとすると、たくさん奪われるみたい』

もし、それが本当なら……。

こんなに突然忘れてしまったのは、翼を救える可能性が、大きくなってるってことじゃないの?

私は、机の上のオルゴールを見つめた。

きっと、これ以上何かを変えてしまったら、私は、何も思い出せなくなる。

震える手を、ぎゅっと握りしめた。

「きっとこれで、最後……」
そう言って、私はオルゴールに手を伸ばした。

何枚も描かれていた、夏祭りの日の絵。

一回目は、駅前のアーケードに集合場所を変更した。
二回目は、翼の家に迎えに行った。
三回目は……防波堤で、翼が来るのを待った。

記憶の奥で、赤い光が点滅する。

——今度こそ、あの日に。