オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

チャイムが鳴り、みんなが席に着く。
でも翼は、ふらっと教室の外へ出ていった。

私は思わずその後ろ姿を目で追いかける。

一回目も、確かに私たちはこの授業に出なかった。
だけどそれは、私が勢いのまま教室を飛び出して、翼が追いかけてきてくれたと思っていた。

——『俺も、授業出る気分じゃなかっただけ』

あのとき気遣いだと思っていた言葉は、もしかしたら本音だったのかもしれない。

——きっと、あそこにいる。

そう思った瞬間、私は立ち上がっていた。

視聴覚室の扉をそっと開けて中を覗く。

普段は机の上に積み上げられているはずの椅子が、いくつか床に下ろされていた。

その椅子を並べた上で、翼が横になっている。

静かに近寄って覗き込むと、翼は苦しそうに目を閉じていた。

その頬はほんのり赤いように見えて、さっき、頭を撫でられたときの手が、やけに温かかったことを思い出す。

私は、翼のおでこにそっと手を当てた。

「……!」
触れた瞬間、翼がびくっと体を起こす。

驚いたように目を見開いて、それから私の顔を確認すると、ほっとしたように息をついた。

「……汐莉か」
一瞬触れたおでこは、温かいような気がした。

「熱あるんじゃない?」

翼は、小さく首を左右に振る。

「微熱だから大丈夫」

その言葉に眉をしかめた私をみて、翼は続けた。

「さっき本当は保健室行ってたんだよ」
「え?」

困ったように眉を下げて、彼は笑う。

「先生がさ、帰るなら迎え呼ぶって言うから、大丈夫って言って、逃げてきた」

その言葉を聞いて、さっき教室に戻ってきたときの暗い表情の理由が、やっとわかった。

翼はもう一度椅子に体を預けて、仰向けになる。
天井を見たまま、小さくつぶやいた。

「……迷惑、かけたくないんだよ」

私は、椅子からだらりと下げられた手にそっと触れた。
そのままぎゅっと握りしめて、首を振る。

「じゃあ、一緒に帰ろう」

翼が少しだけ顔をこちらに向けた。

「無理したら、結局心配かけることになるんだよ」

彼は、少しの間、天井を見つめて黙っていたけれど。
やがて、小さく頷いて、ゆっくり体勢を起こした。