オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

私は寒気がするような不思議な感覚を抑えながら部屋に戻った。

なんだろ、なんか……おかしいよね。

そして、絵日記が目に入った瞬間、胸がドクンと大きな音を立てた。

ページを開いた瞬間に、息がうまく吸えなくなる。

私はその場に座り込み、しがみつくように絵日記を握りしめていた。

8月29日。28日。27日。26日——。

潮干狩りや、台風が来た日。

日付は最近なのに、過去の思い出が描かれた日記は不思議だった。

けれど、一枚めくるたびに、確かに近い記憶として、そのイラストの光景が押し寄せてくる。

「……翼」
思わず、その名前がこぼれた。

会いたい。
今すぐ、翼に会いたい。

胸が苦しくなるほど、大切で。
どうしようもなく好きな人だったのに。

——その全部を、私は今の今まで忘れていた。

楽しかった時間も。
胸がぎゅっとなるような想いも。

翼を失ったときの、あの悲しみさえ。

忘れるはずのないものを、私はひとつも覚えていなかった。

ものすごい勢いで思い出す感情たちに、そんな感覚が前にも、あったことに気がつく。

大切だったはずの人たちとの思い出が、感情ごと、少しずつ薄れていく感覚。

まるで、最初から何もなかったみたいに。

転校してきて、教室の隅で静かに過ごして、誰とも深く関わらないまま時間が過ぎていく。

そんな毎日を送っていたはずだという、懐かしいような感覚だけが残る、不思議な気持ち。

——違うのに。

私は、この街に来てから、一度だってひとりぼっちじゃなかった。

友達といる楽しさも、誰かと笑い合う嬉しさも、全部、みんなが教えてくれたのに。

私は絵日記を胸に抱きしめた。

大切なものが、少しずつ消えていく。

もしこの絵日記がなかったら——。

きっと私はもう、翼を助けたい理由さえ、忘れてしまう。

そんなの、ありえない。
ありえないのに、私自身の胸の軽さが、それを証明しているみたいで怖かった。

私は絵日記をぎゅっと抱きしめたまま、部屋を飛び出す。

波の音が聞こえる方へ。
翼と過ごした、あの場所へ。

私は必死に、海岸へ向かって走っていた。