オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

玄関先まで見送りに出ると、翼とお父さんのやり取りが耳に入った。

「翼。今日、何食いたい?」
短い問いかけに、翼は肩をすくめて笑う。

「なんでもいいよ。てか、俺が作るし。休んどけば」
学校で聞くより、ずっとぶっきらぼうな声だった。

けれど、お父さんは低い声でぴしゃりと返す。

「余計なこと心配すんなよ」
それだけ言うと立ち上がり、カッパを着込んだお父さんは、こちらを振り返った。

「突然お邪魔しました」
「いえいえ、こちらこそ本当に助かりました」
「いつもありがとうございます」

両親の挨拶に軽く手を上げて、玄関から出ていく大きな背中。

その様子を、翼が少し不満そうに見つめているのが気になった。

先に去っていく背中を見送りながら、翼がぽつりとつぶやく。

「……無理してんのは、どっちだよ」

その声は、雨音にかき消されてしまうくらい小さくて。
きっと、一番近くにいた私にしか聞こえていなかった。

パッと表情を明るくしてこちらを見た翼。

「お邪魔しました!汐莉、また学校で!」
「うん。翼、ありがとう」
翼は笑顔のまま、先を歩くお父さんを追いかけていく。

その後ろ姿に、胸がぎゅっと締めつけられた。