オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

翼は、空気を壊すように、ジュースを一気に飲み干して立ち上がった。

「母さんのこととか、誰にも言ってなくてさ」
誤魔化すように腕に触れながら、少し眉を下げて笑う。

「なんか、汐莉といると気が抜けるっていうか……。って、俺なに言ってんだろ」
ごまかすみたいに笑うその顔は、いつもの翼とは少し違っていた。

困ったような、でもどこか優しい笑顔に、胸が大きく高鳴る。

まるで、特別だって言われているみたいで胸が苦しくなる。

でも同時に、別の痛みが込み上げてきた。

……こんな風に心を開いてくれる可能性があったかもしれないのに、私は、助けられなかった。

自分の弱さで勝手に心を閉ざしていた過去の自分に、涙が落ちそうになる。

「そろそろ帰るよ」
翼はそう言って、背を向けた。

ドアに手をかけた彼を引き止めるように、私は思わず声を出していた。

「まって」
翼が不思議そうに振り返る。

うまくまとまらない言葉をもどかしく思いながら、私は必死に続けた。

「私でよかったら……なんでも聞くから」
自分の手をぎゅっと握る。

「翼が、他の人に言えないこととか。抱えてることとか……が、もしあるなら」
喉が震える。

「いつでも、大丈夫だから……」
その瞬間、翼の表情が揺れた。

一瞬だけ——泣きそうな顔になった気がした。

けれど、彼はぎゅっと唇をかみしめて、すぐに口角をいつもの位置に戻す。

「……うん、ありがとう」
見慣れた笑顔に、少し悲しくなった。

勇気を出して一歩踏み込んだけれど、彼は、また一歩、離れていく。

その距離が、どうしようもなくもどかしかった。