オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

コンコン、と扉がノックされる音に、ハッとして、私はすぐに立ち上がった。

「翼くん。二階、ありがとう! お菓子持ってきたから食べて」
ドアを開けると、お母さんがお菓子とジュースを持って立っていた。

そわそわする空気を壊してくれたお母さんに、心の中で感謝する。

「ありがとうございます!」
翼が爽やかに返事をする。

そのあと、ほんの一瞬だけ。
笑顔の奥に、影みたいなものがよぎった。

——あ。
目が合うと、その表情はすぐに消えてしまったけど。

私は気持ちを切り替えるように、お菓子を机に置いた。

「お父さん、すっごく頼りがいあってかっこいいね。翼のお父さんって感じだ」
そう言うと、翼は少し照れたように笑った。

「ただのお節介だよ」
そう言って、指先で遊びながら視線を落とす。

「……って、前もこんな話したっけ」
恥ずかしそうにしているけれど、お父さんの話をする翼は、やっぱりどこか嬉しそうだった。

ジュースが注がれたコップを手にしたまま、翼がぽつりと口を開く。

「かっこいいし、頼りになるけどさ」
少しだけ視線を落とす。

「……ちょっと、頑張りすぎてる気がして。心配になるんだよな」
驚いて、思わず私は、翼の顔を見つめた。

——私が聞いたわけじゃない。

前の時間にはなかった展開に、少し反応に困ってしまった。

「そうなの……?」
慎重に聞き返すと、翼は小さく頷いた。

「母さんがいないこと、俺が気にしてると思ってるんだと思う」
視線を少し落としたまま、彼は続ける。

「家事も仕事も、俺のことも。全部、手を抜かなくて……俺にはしんどそうに見える」

そして、少し間があいてから、ぽつりと言った。

「……俺がいなかったら、きっと、もっと楽なのにって。時々、思う」

困ったように笑う翼を見て、私の呼吸が止まった。

「あ、ごめん。今のなし」
翼は慌てたように手を振る。

「忘れて」

私は何も言えなかった。

……翼がいなくなったのは、それが理由なの?

海へ向かっていく翼の後ろ姿が、鮮明になっていく。