オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

「じゃあ……お母さんは?」
やっとの思いで口にした声は、思ったよりずっと小さかった。

翼の指先が止まる。

いないことを知っていながら、聞いてしまったことに、遅れて罪悪感が浮かぶ。

ほんの一瞬の沈黙があり、それからきっと、翼は笑おうとした。

けれど——うまくいかなかったんだと思う。

分かりやすく影が落ちる表情を、私は初めて見た。

「……亡くなったんだ。俺が小さい頃に」
言葉を落としたあと、翼は視線を海に向けた。

「俺は、あんまり覚えてなくて。父さんも、あまり話したがらないし」
声は軽く振る舞っているようだったけれど、わずかに揺れていた。

波音が、間を埋めていく。
うまく言葉を見つけられない、自分が憎らしかった。

「母さんいなくなってからさ、父さん、多分ずっと無理してんだよ」
夕陽に照らされた横顔が、少しだけ険しくなる。

「いつも俺優先で、自分のことは後回し。無理すんなって言ってんのに」
怒っているみたいな口調だった。

でも、その奥にあるのは、きっと怒りじゃない。

大事だから、腹が立つ。
守りたいから、苛立つ。

その不器用な愛情に、胸が締めつけられる。
愛に溢れた言葉に、私は泣きそうになってしまった。

こんなに思い合っているのに。
こんなにお互いを大事にしているのに。

どうして——。

結局、翼の影はわからないまま、夕陽がゆっくり沈んでいくのを眺めていた。