オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

帰り際、玄関で背を向けてサンダルを履いていると、低い声がかかった。

「……汐莉ちゃん」
振り返ると、翼のお父さんはまっすぐに私を見ていた。

「翼と仲良くしてくれて、ありがとうな」
見当違いな感謝の言葉に、喉が詰まる。

私は、何もしていない。
それどころか、救えなかったし、気づけなかった。

何も言えず、肩を震わせる私に、温かい手が触れた。

「……あいつは、幸せだったと思うよ」
大きくて、あたたかい手に涙がこぼれ落ちる。

お父さんの声は、祈るみたいに静かだった。

幸せだったなら――どうして。
どうして、翼は、あの海へ向かったの。

翼の家を出ると、潮の匂いを含んだ風が頬を撫でた。

私は、ひとつの覚悟を胸に防波堤の方を見る。

翼の選択の理由を知らなくちゃいけない。

「……探そう」
小さく、つぶやく。

私にはできる。
だって、時間を戻せるんだから。

翼が死を選んだ理由を、探す。
こんなにも愛されていた翼が、そんな道を選ばなくていいように。