オルゴールが鳴る夜、何度でもきみの元へ

「まさか、翼まで、いなくなっちまうなんて……」

地元で有名な、頼れる漁師の“大ちゃん”。
私が知っているのは、豪快に笑う姿だけだった。

「海の怖さは昔から伝えてきたつもりだったのに、足を滑らすなんて、なんでそんなドジ……」

ぽつり、と落ちた言葉。
私は、どう返せばいいのか分からなくて、ただ服の裾をぎゅっと握りしめた。

線香の匂いと、時計の針の音だけが部屋に残る。

翼のお父さんは仏壇の横に立てかけられていた写真立てを手に取った。

七五三だろうか。
ぶかぶかの袴を着た幼い翼が、ぎこちない笑顔を浮かべている。

「これが、最後に一緒に撮った写真だったんだ」

最後だというには、かなり昔の写真。
けれどその背景には、もうそれ以降、並んで笑う時間がなかったことが滲んでいる。

「こんなことになるなら……漁なんてやめて、もっとあいつのそばにいればよかった」

その言葉に、泣きそうになってしまった。

きっと天職だったはずだ。
港で誰よりも大きな声で笑い、たくさんの魚を抱えて帰ってきた“大ちゃん”。

そんな人が「漁なんて」と言う姿を、きっとこの街の誰も想像できない。

翼が防波堤へと向かう後ろ姿を思い出し、私はぎゅっと目を閉じた。

——翼は、ちゃんと愛されていた。

後悔を口にするお父さんの姿から、そのことだけは、はっきりと分かる。

でも、もしかしたらその愛は、うまく届いていなかったのかもしれない。